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ベリィライク
むつごと。



どうしても気に喰わない相手が居るのは仕方の無いことだ。ヨシちゃんにとって僕は“お姉ちゃんを奪ったいけすかない奴”でしかない。だから、睨みつけてくるこの視線にも苦笑しか返せない。
理由はわかっているから、『どうしたの?』なんて白々しいことは聞けないし、小唄と別れるわけにもいかないし、ヨシちゃんの機嫌をむやみに損ねることも避けたい。ああ本当に、気が長い方で良かったなぁ。

「何でお姉ちゃんと付き合ってるの?」

部屋から小唄が出て行った途端、きつい眼差しと口調で詰め寄られて視線が泳ぐ。確かに、小唄が言った通り、顔の造作の整った子だ。整ってはいるけれど、好みじゃあない。全体的に印象がきつすぎる。
小唄も、顔のつくりそのものはきつめなんだけど、“涼しげ”ってイメージの方が強く出るからなぁ。僕の好みは、もっとふわふわして暖かい雰囲気の優しげな人だ。つまりは母さんだけど。

「好きだからだよ」

好きだから。というのは嘘じゃあない。けれど、ヨシちゃんの思う“好き”と同じかといえば、きっと違っているだろう。

「どこが好きなの」

これはどう考えても尋問だ。
ヨシちゃんは、本当に小唄のことが好きだ。僕が母さんを思うのとは、また別の形の想いで。否定はしないけれど。
憧憬と言い表すのは簡単だ。純粋な、理想の押し付け。

「責任感が有るっていうか、物事を途中で投げ出したりしないところ。下準備を欠かさないところ。無意識に優しいところ。当たり前のことが当たり前に出来るところ」

挨拶がきちんとしていたり、困っている人に手を差し伸べたり、微笑みかけたり。当たり前のことを当たり前にするということは、意外と難しい。
小唄がそれを出来るのは、やっぱり警戒心の賜物なんだろうけれど、それが既に板についている。そういうところは尊敬している。それに、小唄はかっこいい。多分一番長い時間小唄と過ごした僕から見たって、そりゃあ欠点が無いなんて言えないけれど(一番大きな欠点は思いやりの欠如かな。)かっこいい。
全部が無意識の計算だとしても、それを実行できるかどうかっていうのは大きな別れ目になるんじゃないかな。

「君は、小唄のどこが好きなの」

聞いてみると、彼女は一瞬目を見開いて固まった。それからへの字に口が歪む。

「何で貴方にそんなの教えてあげなきゃいけないの」
「答えたくないならそれでいいよ」

なんとなくの質問でしかないから。さらりと流したところで部屋のドアが開いて小唄が顔を出す。ヨシちゃんの表情がぱっと変わった。

「お帰りお姉ちゃん!」

本当に、彼女は小唄のことが好きすぎる。



確かに、僕は小唄のことが好きだ。小唄は僕の一番旧い友人で、近しい他人で、もうひとつの家族。
だから、どういうわけか母さんにだけは言えない一言も、その気になれば躊躇い無く言える。

「好きだよ、小唄が」
「いきなり何?」

気味悪そうに向けられた視線に、僕はまた苦笑する。






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あきゅろす。
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