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ベリィライク
ひとごと。



「ごめん。もしかしたら、基にはちょっと迷惑かけるかも」

昼間のデート中、小唄が言った。唐菜家で親戚の女の子を預かるらしい。両親が海外出張で、大学生の兄は一人暮らし。兄の家は遠くて学校に通うのが大変だから、比較的近い唐菜家に。でもどうして、それで僕に迷惑が掛かるんだろう。
そういえば小唄は、物凄く無表情に近い微妙そうな顔をしていたけれど、もしかしてその親戚の子が苦手なのだろうか。珍しいな、小唄が誰かを敬遠するなんて。
夜になって机に向かって勉強していると、窓の向こう側から、賑やかな声が聞こえた。カーテンを開けて見える小唄の部屋には複数の人影があった。一人は小唄だとして、あとは誰だろう。ミチコさんでもツネタカさんでも無いし。

「お姉ちゃん、勉強教えてー」
「小唄ちゃんは今から自分の勉強するんだから、お前は自重しろ!」
「うっるさいなぁ!」

お姉ちゃん…?小唄は一人っ子の筈だし、親戚の子(ヨシちゃんだったかな?)にそう呼ばれているのか。…唐菜家、何か大変なことになってるなぁ。楽しそうだけど、小唄は疲れているだろう。ハイテンションなのは苦手なようだから。
必要な場面では皆に合わせて盛り上がれるのは凄いと思う。器用だ。良い子ぶってるわけじゃあないけれど、あれも猫かぶりって言うのかな。猫かぶりって、『本性を隠して、おとなしそうに見せること』だった気がするんだけれど。調度手元に有った辞書を捲ると、やっぱりそうだった。小唄の振る舞いは逆だから、犬かぶり?でもそんな日本語は無い。
明日会ったらきっと彼女は不機嫌なんだろう。会う予定は、勿論有る。僕は小唄の彼氏だし、そもそも明日も学校だ。不機嫌な彼女の機嫌を取るのも、彼氏の仕事。
…あ、迷惑ってこういうこと?…頑張れ小唄。僕も頑張る。



「…顔、死んでるよ?」
「だから基さぁ、……もういいや」

僕の失礼な発言に文句を言う前に力尽きたらしい。うわぁ、結構な重傷?

「何か、ほんとに、お疲れ様」

小唄の前の人の席に後ろ向きに座って、伏せている小唄の髪を触る。うん、やっぱり傷んでる。灰色だもんなぁ、仕方ないか。でも不思議と、触り心地は悪くない。僕は小唄の髪、結構好きだ。
ばらばらに切られたぱさぱさした毛先を観察しながら、聞いてみる。

「ヨシちゃんって、そんなに困った子なの?」
「いや別に」
「じゃあどうしたの」
「…懐いてるんだよね、すっごく」

すっごく。僕は復唱する。なんだか力の入った『すっごく』だった。全力で懐かれているらしい。某忠犬な後輩の笑顔が脳裏をよぎる。

「んー。構ってあげないと拗ねる、とか?」
「そんな感じ」

だるそうに頷く小唄に、僕は言う。

「栄太みたいだね」

小唄が顔を上げた。

「それ、私も思った」

やっぱり。と、ちょっと遠い眼をしてみる。
そうか、栄太タイプか。家で一緒なのは大変そうだ。妙なフィルターの掛かった目で見られて、理由もわからず慕われるのは。ああ、考えてみたら僕でもストレス溜まりそう。年下からキラキラした目で見られたら、期待に応えたくなっちゃうし。



「…頑張って、小唄」

応援したら睨まれた。…えーっと…、他人事でごめんね?






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あきゅろす。
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