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ベリィライク
きっかけ。



自分の部屋でくつろいでいると、突然扉が開かれた。
「基、ちょっと話が有る」
珍しく不機嫌そうな顔で現れたのは、灰色に染めた髪の女子。アシンメトリーの前髪の奥、吊り気味の涼しげな瞳とあいまって、クールな印象を受ける。女子にしては身長も高いからなおさらだ。
唐菜小唄。僕の幼馴染。
「何かあったの?」
僕が首をかしげると、小唄は微妙な表情で話を切り出した。

「私とあんた、付き合ってるって噂らしいんだけど」

…。
意味がわからない。小唄は僕の、ただの幼馴染なのに。小唄が僕を好きになるなんてありえないし、僕が小唄を好きになるなんてもっとありえないのに。僕らが仲良くしていられるのは、互いが互いを好きになることが無いと知っているからなんだから。そうでなければどちらかが意識してしまって、きっと疎遠になっていた筈だ。

「そんな噂、いつ誰に聞いたのさ」
「さっき教室で田崎に」
「え、さっきまで教室にいたの?遅くない?」
「生徒会の仕事やってたから。帰りに教室に寄ったの」
「あぁ、お疲れ様」

そう言えば昼休み、ついに田崎が告白するらしいぞ、なんてクラスの友人が騒いでいたなぁ。相手って小唄だったんだ。ちょっと納得。世間一般からすると、小唄って美人さんだし。母さんには及ばないにしても、僕だって素直にそう思う。見た目きつそうだけど話すと気さくだし、まじめで責任感強いし。他人に対しても結構親切で、人づきあい上手いし。生徒会員だし。…なにげなく才色兼備だよね、小唄って。

「で、振ったの?」
「あぁ…、知ってたの。その答え、聞く必要有る?」
「いや、ここは流れ的に聞くべきかな、と思って」

僕は笑った。小唄に呆れた目で見られた。
田崎は振られたんだろう、可哀想に。好きなひとに振り向いて貰えない苦しさは誰より知っているから、僕は田崎に同情した。けれどそれは田崎からしたら余計な世話なのかもしれない(だって彼からしたら、僕は恋敵だったわけだし。…見当違いだけど)。同時に僕は田崎を羨ましく思う。だって僕は、想いを伝えることすらできないのに、って。
けど田崎、不運だ。どんなに頑張っても、振り向いてくれない女の子に恋しちゃったわけだし。よりによって小唄じゃあ、全く望みもない。

「無駄なのに、どうして好きになるかなぁ」
小唄が溜息を吐く。人からの行為を切り捨てるのは、やっぱり抵抗があるらしい。そりゃあ、振られた方に比べたら、振る方は傷つきはしないかもしれないけれど、それでも多かれ少なかれ苦い気持ちにはなる。僕にも覚えがあった。

「困るよね。いっそ恋人がいれば諦めて、傷つかなくて済む人が増えるかもしれないのに」
「自分より好きな人なんてできないのに?」
「僕も、母さんより好きな子なんてできないよ。恋愛って難しい」

そこまで言って気付いた。
僕も小唄も一番好きな人は決まっていて、互いにそれを理解している。どちらともそうであるならば、傷つくことは少なくて済むんじゃないだろうか。
それがとても良い考えに思えて、僕はにっこりと小唄に笑いかけたのであった。

「ねぇ、僕と付き合おうよ」





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