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ベリィライク
ほほえみあう。



「基、待たせた?」

昇降口で待っているとやって来た小唄にお決まりの台詞を返す。

「平気だよ。帰ろうか」

小唄の三歩後ろを歩いて来た栄太が俯いている事には敢えて触れない。きっと栄太は泣いたんだろう。耳と首筋が僅かに赤くなっているのが見える。けれど悲壮な感じはしないから、良い意味での涙なんだろうと思う。小唄と一緒に居るってことは、そういうことだ。
のんびりと靴を履いて、門から出る。途中までは栄太も同じ道で良い筈だから、三人並んでの下校になる。真ん中に栄太で、左に小唄、右に僕。真ん中の凹んだ長い影が伸びているのに目を細めた。

「売上一位は三年A組だってさ」

小唄が言った。そういえば会計だから、そういった集計は小唄の仕事なのだろう。三年A組といえば、――部長のクラスだ。何となく納得して頷いた。

「…当然って感じがするよ」
「浅野先輩と岡崎先輩のクラスだしね」

小唄が笑った。彼らは何食わぬ顔で売り上げトップを掻っ攫って行ったのだろう。浅野部長なんて「まぁ、妥当じゃね?」とか言いそうだ。そして微笑みながら否定はしない岡崎先輩。あの部長と仲が良いだけあって、岡崎先輩もまた一筋縄ではいかないタイプらしいから。

「部長って、強いですよね」

ぼそ、と栄太が呟いた。栄太は揶揄い甲斐が有ると言って、よく部長に構われて――遊ばれて、いるから。部長にとっては栄太の反応がツボなんだろう。一番は副部長だけど、二番目に被害を被っているのは栄太だ。
勿論その分、目を掛けて貰っているわけだけど、栄太は気付いていないだろうなぁ。

「うん、強いよね」

いろんな意味で。と小さく付け足して、笑う。くく、と小唄が笑う声がした。頑張って堪えようとして失敗したらしい。

「笑うなよ」
「ん、ごめん」

軽く睨めば、小唄は直ぐに笑いを引っ込めた。こういうところは長所だと思う。
栄太が漸く顔を上げた。何か意外そうな表情をしている。

「何?」

訊ねると、はっとしたように目を逸らして、頬を染める。

「いえ…、仲が良いな、と思って」

そんな事を言うにも恥ずかしがっているらしい。ふと小唄を見れば、呆れたような、微妙に複雑そうな顔をしていた。ある意味、僕たちは栄太を騙しているから。好き合っているわけでもない僕たちのことを語るのに、本当なら照れることなんて何も無い筈だから。罪悪感、とも少し違う感情なんだろうけれど、小唄は良い奴だなぁ。

「もともと幼馴染だしね」
「あ、部長も言ってましたもんね」

納得したように頷く栄太は、ここで別れ道だからと立ち止まる。月曜は振り替え休日になるから、次に会うのは火曜日だ。

「あ、小唄先輩。また手伝いに行っても良いですか?」
「待ってるよ」

不安げな栄太の問いに小唄は頷いて、僕は最後ににっこりと笑い掛ける。

「楽しかったね」

言えば、二人とも笑って頷いた。





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あきゅろす。
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