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ベリィライク
はんせいする。



今日も今日とて忙しい。寧ろ、追い込みに入って、より忙しい。直前インタビューの原稿作成、材料の手配(――は、草薙がやってくれたのだったか。)、各クラスの出し物の紹介と地図とステージ発表の時間割が載ったパンフレットの作成、ミスコンは生徒会企画だからその手順の確認。飾り付け、暗幕の修繕。各クラスの準備の進行度合いをチェックして細々としたところを確認。

「小唄先輩、終わりましたっ」

今、後輩くんに手渡されたのはミスコンアンケートの集計。これは生徒会企画だから、生徒会の人間が候補者に参加打診に行かなくてはならない。

「行こうか、後輩くん」

暑い。立ち上がった瞬間感じた夏の名残りに眉を顰め、それを振り切るように瞬きをしてプリントを受け取る。上位五人が候補者で、――まあ、副会長は最後で良いだろう。三年から廻ろうか。
ミスター部門に基と、浅野忠義の名前を発見して、微妙な気分になった。人とはとことん見かけに騙される生き物らしい。



「…小唄先輩、ほんとに仕事早いですね。OK貰うの上手いし」

あっさり全員から了承を貰って生徒会室に戻る途中、後輩くんが言った。こういうのって、何人かは断るものなんじゃあないんですか。

「うちの学校、ノリの良い人多いからね」
「いや、奥野先輩とか明らかに違いましたし」
「でも良い人っぽかったでしょ」
「…そうですけど、うあっ」

おっとり清純派美少女な先輩の癒し系笑顔を思い出して答えると、後輩くんは口ごもる。とたん、躓いて転びかけた。とっさに腕を掴んで転倒を阻止して、直ぐに手を離す。

「…、小唄先輩?」

後輩くんの顔は、少し赤い。そして、少し息切れしている。後輩くんの顔は私より低い所にあって、普段は旋毛がみえるくらいだ。これだけ身長が違えば、当然、足の長さだとかも異なるわけで。

『働きすぎ、だよ』

と、基の声が思い出される。――少し急ぎすぎていただろうか。一緒に居る後輩くんには、私と同じスピードを強要しているわけだし。
急がせて、ごめん。内心で謝罪する。口には出さない。彼は負けん気が強いから、気遣われたと知ったら怒りそうだ。そもそも原因が足の長さなのだから、男の子に言うべきではない気がする。

「なんでもないよ」

答えて、また歩き出す。インタビュー原稿は生徒会長の挨拶と一緒に副会長が書いているし、パンフの作成は草薙にパソコンで編集してもらったものを綴じるだけだし、ミスコンの手順は候補者の人たちに説明することで確認も出来たし、飾りつけとか修繕は殆ど終わってるから松前くん一人でもどうにかなるし、各クラスのチェックは私が急いだところで意味がない。やることは多いけど、休む暇が無い程じゃない。

「…すいません」

謝られた。気を遣ったことに気付かれてしまったらしい。さっきより歩くペースが遅くなったのだから当然だ。男心を傷付けたかもしれない。気遣いは苦手だ。謝るのは此方の方なのに、と思いながら、何のことかなと空とぼけた。
やっぱり嫌いだ、という後輩くんの呟きも、聞かなかったことにした。





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あきゅろす。
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