ベリィライク
よろめく。
机に影が掛かる。
良く知っている声が、僕を呼ぶ。
「基」
顔を上げると、彼女がいた。灰色の髪が肩を滑り落ちて行く。光が反射して、銀色に煌めいた。
「どうしたの、小唄」
「理瀬に付き合わされてね」
苦笑が重なる。また、と枕詞に付きそうなくらい、最近は毎日のようにうちのクラスに来ている。
「あ、唐菜さんだー」
他の女子が小唄に気付いて近寄ってくる。相変わらず、小唄は人気者だ。小唄はかっこいいから。僕は意識的に女子に優しくしてるけど、小唄は無意識の行動が男前だ。一昨日も階段から落ちかけた女子を助けてたし。有能だし。これで男だったら、ますますモテていたんだろうなと思う。
小唄は笑顔で女子をあしらって、僕との会話に戻る。他の女子たちもはっとして離れて行った。
「邪魔しちゃってごめんね!」
…僕と付き合ってることを上手く利用したらしい。扱いの見事さに内心で拍手した。やっぱり凄いなぁ、小唄。洞察力は警戒心の賜物なんだろうか。
最近、うちのクラスによく水島さんが来る。小唄を引き連れて。不思議に思って小唄に理由を聞いてみた。
「田崎を見に来てるんだよ」
「…田崎?」
「好きなんだと」
「流行ってるの?恋愛」
「流行りって…」
「だって、最近多いから」
この間は賀川さん、続いて水島さん。ついでに、有る意味、僕と小唄。首を傾げると微妙な視線を向けられた。
「理瀬は去年からずっと田崎が好きだよ」
「へぇ、知らなかった」
驚くと、視線ははっきり呆れに変わる。小唄も僕に対して遠慮しないよね。お互い様だから良いけど。
「鈍すぎ」
小唄が鋭すぎるだけだと思う。特に、自分の身の回りのことに関しては動物並みに鋭い。彼女の自分を守る為の行動は既に条件反射だ。周囲の関係性とかの情報収集も含め。あれ、でも確か。
「田崎って、小唄が好きだよね」
「うん」
だよね、それがこの関係のきっかけなんだから。腕の中の小唄に問いかける。
「大丈夫なの、それ」
「私は基の彼女だから」
当然のように言い切った小唄の男前さに目眩がした。ちょっとときめいた。かっこいい。
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