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ベリィライク
てをつなぐ。



「暑い…」
「うん。アイス食べる?」

私のぼやきに反応して、基が多目的ビルの入り口を指差した。そういえば新しくジェラートショップのテナントが入ったと宣伝していたと思いだして、息も絶え絶えに頷く。とにかく今は涼みたい。そもそも何故こんな炎天下を歩かなければならないのか、答えは(「もとくんは小唄ちゃんとデートとかしないの?」という基母の一言によって)デート中だからである。生徒会の仕事も一段落ついたので、私が了承したのだけれど。
ジェラートショップで涼んでいると、見覚えのある女子が視界に入った。隣の男と腕を絡ませている。祐美と名前も知らない男のいちゃつきっぷりに、ついジェラートを食べる手が止まった。最近の祐美はメールでも惚気話なので、多分あれが話に聞くところの『ヨっくん(はぁと)』なのだろう。

「どうしたの」

動きが止まったのを不審に感じたらしい基に顔を覗き込まれ、我に帰る。

「知り合いのラブシーンって、インパクト有るなぁ、と」

基は私の視線の先を認めて「あ」と声を上げた。

「久米先輩だ」
「知り合い?」
「部活で。久米良仁先輩だよ。滅多に来ないけど」

弓道部の幽霊部員、久米良仁先輩。先輩ということは三年生らしい。黒い短髪に清潔感の有る服装、少し神経質そうに整った顔立ちをしているが目元は優しい。

「真面目そうなのに幽霊部員?」
「意外と不真面目みたいだよ。結構遊んでるらしいし」
「『みたい』とか『らしい』とか…」
「関わり無いからね。幽霊だし」

それもそうかと納得して、祐美の過去の恋人たちを思う。恋は戦争、と豪語する祐美は、しかし異常なまでに男運が悪い。今回こそはと拳を握っていた割に、また失敗したのだろうか。まぁ長続きすることを祈ろう。

「知り合いのラブシーンって、結構インパクト有るね」
「雰囲気凄いよね。甘いっていうか」

確かに。二人の表情は、確実に苺のジェラートより甘い。

「なんかもういらなくなってきた」
「残すのは駄目だよ。奢ってあげるから完食して!」

笑いながら基が言う。もういらないなんて、言ってみただけだ。勿体無いし、当然最後まで食べる。いくら知り合いの甘い雰囲気に中てられたとしても。

「良いよ、別に」
「でもこれデートでしょ?」

遠慮してみても、デート代金は男が払うものだと基が拘るので、会計は任せた。――もしかしなくても、それも母親の教育か。



夏休み明け、相変わらず祐美は惚気てくれた。メールだけでは足りなかったようで、休み中の“彼と過ごした時間”について、やたらと詳しく。
知ってるよ、現物見たから。思っても口に出せないのは、マシンガントークにうんざりしていたから。これ以上話を引き延ばして堪るか、という切実な思いである。
ただでさえ暑いのに、暑苦しい奴。恋する乙女は可愛いものらしいけど、それは実害が無ければの話だ。――と、基に話したら笑われた。

「小唄も惚気れば良いじゃない」
「やってみるよ」

“恋人”だもんね、と私も笑った。





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