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ベリィライク
はじまり。



初夏。まだまだ暑さはこれからだろうに、私は既にへばり気味である。暑い、暑い、暑い。冬生まれだからか、暑さには弱いのだ。地球温暖化とか、切実に勘弁してほしい。

「あはは、きつそうだね、小唄」

おっとり微笑む彼は、私の幼馴染である高月基。基は暑さに強い。

「この八月生まれが…」
「僕は冬にも強いよ。昔は嫌いだったけど」
「地球の平均気温は確実に上がっているってことか…」
「そうだねぇ。…小唄、ほんと大丈夫?顔やばいよ?」
「それが女子に言う台詞?」

せめて顔色と言えないのだろうか。デリカシーが足りない。それでももてるのはやっぱり顔なのか。まぁ見目が良いのは認める。はっきりした目鼻立ち、さらさらの黒髪、身長だって高い方だろう。物言いもやさしいし、フェミニストだし、意外な事に腕っ節も強い。柔道だの空手だの合気道だのと、色々な武術に手を出しているから。おまけに学力も、テストの点数も毎回学年十位代には入る。ここまでくると人気が出るのも当然のような気はするが、こいつの決定的なマイナスポイントを私は知っている。

「僕にとって女子っていうのは母さんだけを指す単語だから」

「あぁはいはい」
マザコンなのである。それも並大抵のレベルではない。初恋は母親で、その初恋が未だ継続中。高校二年にもなって痛すぎる。しかも自覚している。こいつがフェミニストなのは、『もとくん、女の子には優しくね』という母親の教えを守っているからにすぎない。母親から褒められた日のこいつの顔、全校の女子に見せてやりたい。しかもいちいちそれを私に報告しに来るのだ。ウザイことこの上ない。あのでれでれの笑顔がどんなにむかつくことか。

「なんだよその生返事。冷たいなぁ」
「暑苦しい」
「酷い。だから彼氏の一人も出来ないんだ」
「いらないし」
「うん、知っていて言ったから」
「だよね」

彼氏は要らない。あぁ勘違いしないでほしいが、彼女も要らない。恋人が要らない。むしろ一生恋が出来る気がしない。というかきっと出来ないだろう。
基は私の在り方を理解しているから、またおっとりと笑った。



――と、いうのが昨日の話で。

『傷つきたくない』。これが私の根源思想。だからいつだってそのために行動する。誰だって自分は大切だろう。けれど私のそれは異常だった。自分でもそこまでするかと思うくらいに、心も身体も、傷つくことを許さない。どこまでも自分が大切で最優先。そういう思いがいつでも深く根ざしているのだから、ときに自分よりも相手のことで思考を支配される恋愛は、どう考えても私には不可能だろう。したいとすら思えない。ある意味これは究極の自己中なのだろうか。
そんな私だから、現在大変困惑している。

「唐菜のこと、好きだ。…付き合ってほしい」

目の前で顔を赤くしてそう言ったのは、田崎兼彦くん。放課後の教室、二人きりになったところでの告白である。困った。マジで。だって彼は、私の友人である水島理瀬の想い人なのだ。嫌だ。泥沼、絶対回避。でも、どうやって?

「ごめん、付き合えない」

「…やっぱりなぁ。高月と付き合ってるんだろ?」
「え」

基と。よりによってあのマザコンと。あまりにも想像がつかなくて一瞬、フリーズしてしまった。

「結構、そう言ってる奴、多いから。けどやっぱり、そうなのかぁ」

はぁ。と、溜息を吐いた田崎くん。彼はどうやら良い奴だ。人の良さが滲み出ている。
そんなに噂になっているだなんて、知らなかった。むしろ何がどうなってそんな噂になった。
きっと基も知らないんだろうなぁ。知っていたら私に言うだろうし。そして知ってしまったからには、私はこの事実を基に伝えるべきなのだろうか。
めんどくさっ。





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あきゅろす。
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