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夢の小桜
ひと時の逢瀬【練紅炎】
『紅炎さん!またこのような所で……』
「ん?ああ…雪華か」
『お仕事はどうされたんですか?』
「きちんとやっている。今は休憩中だ」
煌帝国の王宮にある資料庫では、第一皇子、練紅炎とアシファルト国第一皇女、雪華・リディアが話していた。
『……はぁ。まぁ…お仕事もきちんとこなしているのなら良いのですが……』
そこで一度言葉を区切り、雪華はジトっとした目で続けた。
『紅炎さんはつい夢中になって何時間も資料庫に篭ってしまうことがありますからね』
「………そうだな」
実際、過去にも何度かそうなったことがあり、その時は偶然公務で煌に来ていた雪華がやっとの思いで資料庫から連れ出したのだ。
『もう……使用人の方達は紅炎さんに口出しなんて出来ないんですから、程々にして下さいよ?』
「そうだな。そこは以後気をつけよう」
『そ、それと!』
「?」
付け加えるように少し大きな声を出したウランに少し驚きながら、紅炎は雪華の方へ視線を向ける。
『そ、その…、お体に障ったりしたら大変ですし…。何というか…心配、なので…』
頬を紅くさせながらそう言う雪華に、少しの沈黙のあと、紅炎は彼女の手を引いて抱き寄せた。
『こ、紅炎さん!?』
逞しい腕に抱かれ、たじろぐ雪華。
「お前と婚約して良かった」
囁くように、紅炎はそう言った。
しかし、雪華の脳を甘く痺れさせるにはそれだけで十分だった。
まるでそれが答えだとでも言うように、雪華の身体がビクッと小さく反応した。
雪華の後頭部に置かれた紅炎の大きな手は、優しくその少女の髪を梳く。
(こんなことされたら強く言えないじゃない……)
やはり自分は紅炎が好きで、どうしても甘くなってしまうのだと改めて思う。
結局は紅炎の逞しい腕に大人しく抱かれてしまっているのが何よりの証拠だろう。
『……なんだか逢引している気分だわ…』
「似たようなものだろう。まぁ、あまり長くこうしていると抑えが効かなくなりそうだし、そろそろ戻るか」
『抑え……?』
「お前をどうにかしまうかもしれないということだ。……この言葉の意味が解らないということもないだろう?」
さらりとそんな事を言ってのけた紅炎に、再度頬を紅くさせる。
『なっ…!?紅炎さん!!』
紅炎は自分が座っていた椅子に雪華を座らせ、触れるだけの口付けをし、艶のある声で雪華に囁いた。
「今夜は俺と寝てもらうからな」
『!!』
「――――――」
今までにないくらいに一気に顔を真っ赤にした雪華に、フッと笑みをこぼしその場を立ち去った。
雪華は、それがまるで魔法の言葉だったかのように、心臓が早鐘を打ち、暫く顔に感じる火照りが治まらなかった。
『一体、どれだけ惚れさせるのよ…あの人……』
紅炎が去り際に雪華へ言った言葉。
「俺の妻はお前だけで十分だ」
それは、自惚れかもしれないが“私以外を妻に迎える気などない”と言われているようにも聞こえ。
雪華は夕方になるまでずっと資料庫から外に出られなかった。
ーーーーFINーーーー



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あきゅろす。
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