平穏な村に訪れた、突然の喧騒。普段は閑静とも言えるテリス村には、最近になって来訪者が多く訪れるようになっていた。
元々貴族たちの避暑地が近いこともあり、夏の時期は人の往来が激しくなる。村は避暑地と麓の村との中間に位置し、中継点としての役目を担っていた。
しかし今の時期は夏に近いものの、人や物の行き来が盛んな時期にしては少しばかり早い。
テリス村に一軒だけ存在する宿には、国内外からの旅人で賑わっていた。
本来なら真夏の時期は家にこもって過ごしていたルーシェは、突然の村の変化に対応できず戸惑っていた。
一階の窓辺に椅子に腰掛けて、ルーシェは村の様子を見つめる。一見しただけで明らかに冒険者、旅人と分かる装いをした人々が、こぞって村の外へ向かっていくのを見て、一つ小さな溜息をついた。
今は森に命が溢れる時期だ。大半の動物が愛を語り合い、育む。粗野で乱暴な冒険者たちに森が荒らされないかと不安だった。
冒険者全てが乱暴なわけではない。それくらいルーシェにも分かっていた。だが、未踏の地へと踏み入れて、動物と鉢合わせし、魔物と間違えて射殺してしまうことが多かった。
シカでもウサギでも。大小構わず彼らは切り刻み、その皮や肉を金貨へと変えようとする。その現実に耐えられないものがあった。
何よりも気になるのは動物よりも、大切な友人の無事。彼、もしくは彼女は無事だろうか。