6

「……冗談だろ? ルーシェ、どうしたんだよ。なんでそんなにあいつの肩を持つのか分からないよ」

「助けてくれた人を悪く言うのって間違ってる! 神父さまは、今まで聞いた人たちと違うもん!」

 玄関前の痴話ゲンカを聞きつけたのか、植えつけられた木々の枝に鳥たちが集まり始めていた。

 彼らは異口同音で言う。

「森は、全部知ってるよ」

 昼も夜も、一年を通して眠らない森。たとえ木々が眠っても、夜を生きる動物たちが宵闇を駆け回る。

「森は……全部知ってるんだから……」

 消沈していく声に比例して、マクスウェルの怒りも収束していく気配がした。

「……分かったよ。ルーシェがそういうなら、本当なんだろうし……」

 根負けしたマクスウェルは溜息混じりに言った。

×××

 ディーンは村長として、司祭の真似事をしていた。例え偽りの司祭だとしても、敬い慕う心を捧げる行為に違いない。神は地上に生きるすべてのものに対し、等しく均しくある存在。神の御前では聖職者も農民も関係ない。だからこそ神は許してくださる。長くそう信じていた。

 しかし今村人に連れられて来た青年は本物の司祭だ。足元まで隠す黒いローブに、胸に提げた黄金色の十字架。白い襟には小さくも輝く鳥の足を象った金色の徽章が輝いていた。

 窓から差す光が横顔を照らす。ガラスに反射した眼鏡が真面目な印象を強めた。

 村人に四方を固められ、眼鏡を掛けた青年は些か窮屈そうに見えた。大の男に睨み付けられては、彼も手は出せない。首筋に当てられている刄が鈍色に輝いていた。

 ディーンは無言のまま青年司祭を眺めた。黒一色で纏められた司祭服と輝く金髪、そして鮮やかな青い瞳。

 容姿だけで言えば、後々問題を起こしかねないものだった。

 予めタイダルクロウデンのヴィエラから連絡は受けていたが、これほど若く凛々しい男だとは知らされていなかった。

 ヴィエラが何を望み、彼を送り込んだのか。先の知らせには触れられていない。彼の弟子であるマクシミリアンは、あまりに気に掛かった。

「まだお若いようじゃな」

 言いながら、ディーンは顔、首、肩、手と、目に見える部分を観察し、凡その年齢を思考する。口髭と小さく丸い眼鏡は変装のつもりか。肢体から導きだした年齢にはそぐわない気がした。

「これ、おまえはなにをしとる。その物騒な物をしまわんか」

「しかし……!」

[←(*)]] [↑(0)] [(#)→]




6/6ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!