「……冗談だろ? ルーシェ、どうしたんだよ。なんでそんなにあいつの肩を持つのか分からないよ」
「助けてくれた人を悪く言うのって間違ってる! 神父さまは、今まで聞いた人たちと違うもん!」
玄関前の痴話ゲンカを聞きつけたのか、植えつけられた木々の枝に鳥たちが集まり始めていた。
彼らは異口同音で言う。
「森は、全部知ってるよ」
昼も夜も、一年を通して眠らない森。たとえ木々が眠っても、夜を生きる動物たちが宵闇を駆け回る。
「森は……全部知ってるんだから……」
消沈していく声に比例して、マクスウェルの怒りも収束していく気配がした。
「……分かったよ。ルーシェがそういうなら、本当なんだろうし……」
根負けしたマクスウェルは溜息混じりに言った。
×××
ディーンは村長として、司祭の真似事をしていた。例え偽りの司祭だとしても、敬い慕う心を捧げる行為に違いない。神は地上に生きるすべてのものに対し、等しく均しくある存在。神の御前では聖職者も農民も関係ない。だからこそ神は許してくださる。長くそう信じていた。
しかし今村人に連れられて来た青年は本物の司祭だ。足元まで隠す黒いローブに、胸に提げた黄金色の十字架。白い襟には小さくも輝く鳥の足を象った金色の徽章が輝いていた。
窓から差す光が横顔を照らす。ガラスに反射した眼鏡が真面目な印象を強めた。
村人に四方を固められ、眼鏡を掛けた青年は些か窮屈そうに見えた。大の男に睨み付けられては、彼も手は出せない。首筋に当てられている刄が鈍色に輝いていた。
ディーンは無言のまま青年司祭を眺めた。黒一色で纏められた司祭服と輝く金髪、そして鮮やかな青い瞳。
容姿だけで言えば、後々問題を起こしかねないものだった。
予めタイダルクロウデンのヴィエラから連絡は受けていたが、これほど若く凛々しい男だとは知らされていなかった。
ヴィエラが何を望み、彼を送り込んだのか。先の知らせには触れられていない。彼の弟子であるマクシミリアンは、あまりに気に掛かった。
「まだお若いようじゃな」
言いながら、ディーンは顔、首、肩、手と、目に見える部分を観察し、凡その年齢を思考する。口髭と小さく丸い眼鏡は変装のつもりか。肢体から導きだした年齢にはそぐわない気がした。
「これ、おまえはなにをしとる。その物騒な物をしまわんか」
「しかし……!」