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 村人が司祭を取り囲む。暴力に訴えるつもりはないのだろうが、明らかな敵意と拒絶を漂わせていては言葉など意味がない。

 せめて一言。マクスウェルに引きずられながらも、ルーシェは振り向いて叫んだ。

「助けていただいたこと、忘れません! ありがとうございました!」

 人集りから覗く顔――マクシミリアンが微笑みながら片手を振った。

×××

 漸くの帰宅で胸を撫で下ろすものの、受難はまだ続いていた。婚約者マクスウェルは手を離そうとせず、黙り込んだまま家のある方向へと歩き続ける。

 彼が言葉を発したのは、村の広場を過ぎて家の門が見えたときだった。

「……一晩中、あいつと一緒だったの?」

 険の含んだ口調にルーシェは黙って俯いた。マクスウェルの怒りも最もだ。慎重に慎重を重ねて過ごした十七年間が無駄になる。軽率さを咎める雰囲気に呑まれ、肯定も否定も躊躇われた。

「なにも、なかったの?」

 なにもの“なに”が何を差しているのかは明白だった。根掘り葉掘り聞かれても答えは返せるが、眠っていた時間に疑われるなにかがあったかもしれない。

 目覚めた時、身体に違和感を感じただろうか? 普段と変わりない――強いて言えば、冷たく固い地面そのものが違和感だった。自問自答して、ルーシェは黙ったまま首を横に振った。

「……答えが遅いのは、なにかあったって証拠じゃないの?」

「ちが……!」

「なにが違うんだよ! 変だろ!? 見ず知らずの、しかも精霊使いを助けるなんて! よくある話じゃないか! 隷属を誓わせて、命を引き換えに身体をよこせなんて!」

「神父さまはそんな人じゃない! だって、だって……!」

 確かにマクシミリアンの行動は、噂される聖職者の愚行とは正反対だった。清水と泥水ほどの差がある。

 なぜ彼が自らを助けたのか、ルーシェには知る由もなかった。彼の名前でさえ、つい先程知ったばかりなのだ。

 清流に腕を浸していたこと、それを“持病”と言ったこと。

 彼は案外秘密主義者だ。そもそも初対面の人間に対して名乗ることすらしなかったのだから、マクシミリアン自身が精霊使いとの接触を避けようとしていた可能性だってある。

 ルーシェは思いつくままに、マクシミリアンを擁護する説明を聞かせた。そんなことでマクスウェルが納得するとは思えないが、魔物を退けた力は確かで、守ってくれたことも事実。

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