「……その格好は――そうか、あんたが噂の……」
「お初にお目にかかります。私はマクシミリアン・ロックハートと申します。教皇庁より――」
「黙れ」
剣を抜いた男が切先をマクシミリアンに向けた。
「お前が誰であろうと、我々には関係ない。去れ。お前はこの村に必要ない」
そうだそうだと、ざわつく村人たち。誰もが敵意に満ちた眼差しを青年に向けていた。
待って――声を遮るように、マクスウェルが進み出た。
「ルーシェを攫おうとしたんだな!?」
柄に手を置いて、マクスウェルが凄んだ。相手が聖職者であるなら、武力行使も厭わない村人らしい態度だ。
数十名の、武器を携えた者を相手にマクシミリアンはどう対応するのか。ルーシェは固唾を呑んで見守った。
集団で入り口を塞いでいる今の状態は野次馬を集めやすい。幸いなことに旅人の多くが魔物退治に出ているらしく、この場にいるのは村人だけだった。しかし長引けば、森から戻ってきた旅人たちの目に付いてしまう。
頭に血が昇った村人たちでは、騒ぎを最小限にすることを考えるはずがない。高まった士気は団結力を生むが、その結束が良い方向に働くとは限らなかった。
止めないと。しかしどうやって。ルーシェはひとり狼狽した。
マクシミリアンは怯えることも、恐れることもしていない。刃を向けられようとも顔色ひとつ変えないまま、彼は口を開いた。
「……ヴィエラ・ローフィールドの使いです。せめて、村長ディーン・クレストルージュ様にお目通りを」
ヴィエラ――かつて村にいた司祭の名だった。さすがに村人たちも驚いたのか、波紋のように動揺が広がっていく。
「ヴィエラ様の……?」
「まさかこんな若造が?」
疑問の声が囁かれ、互いに困惑の隠せない表情で顔を見合わせて、真偽を確認しあう。
剣を向けていた男が振り返った。吊りあがった目と気迫に、ルーシェは恐ろしさを感じて後ずさりした。
視線がマクスウェルに転じる。
「お前はルーシェを送ってやれ。フィリアが心配してるだろうしな」
「わ、分かりました。ルーシェ、行こう」
掴まれた手。牛の牽引に似た力にルーシェは慌てた。
彼に――マクシミリアンに一言伝えなければ。お礼のひとつも言っていないのに。