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 そもそも村では聖職者の話題は忌避されていた。明確な禁止令が出されたわけではない、暗黙の了解というもの。

 彼は――目の前の司祭は許されるだろうか。命を奪われることはないのだろうか。

 看板を左に曲がり、緩やかな坂道になる。歩行速度は坂道同様に緩やかだったのは、互いに重々しい何かを感じ取っていたからなのか。

 暫く歩き続け、緑に包まれた一本道の先に、櫓の黒い屋根が見えた。

×××

 真新しいベルベットを広げたような緑が、視界の大半を覆っていた。光沢のある葉艶は陽光を反射して星のように瞬く。

 青空と森の境界線は明確で、顔を上げたルーシェはほっと安堵の息を吐いた。

 歩き続けていた道もなだらかになり、人里の気配さえも肌に感じられる。テリス村は間近に迫っていた。

 村に近づくにつれて、青年司祭の顔には緊張が見え始めていた。優しげな碧眼には薄暗い不安の陰が落ち、歩調は気だるげだ。

 出来ることならば近づきたくないのだろう。ルーシェは健気に見えた背中に哀れむような眼差しを向けた。

 ルーシェは不安を胸に押し隠して、黙って彼の背を追い続ける。

 精霊使いの姿を見てしまったために、彼の命は風前の灯火。テリス村に住む者たちが彼を許すはずがない。

 彼が受け入れられるか否かは、彼自身の言動と行動にかかっている。下手な言葉で騙そうとすれば、村人たちは躊躇いなく刃を向けるだろう。

 聖職者を拒絶する村テリス。多くの司祭が逃げ出した、信仰心に満ちた神聖なる村。村の誰かがそう言って、自嘲気に笑ったのをルーシェは思い出していた。

 直接聖職者に関わったのは目の前を歩く彼が初めてで、今までの聖職者たちがどういった経緯で村を出たのかは聞かされていなかった。尋ねても曖昧な答えが返るばかりで、追い出したとか自ら出て行ったとか、具体的な理由までは聞かされていない。

 名も知らぬ彼は村の拒絶の末に自ら村を去るのか。それとも図々しくも居座り、村人に追い立てられるのか。

 そう遠くない彼の未来を想像し、ルーシェは自己嫌悪に陥った。

 害なす者ではあっても、昨日からの行動を見れば、彼が友好的であることは一目瞭然。指一本触れないと誓った言葉を翻すことは、真面目そうな外見からは考えられない。

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