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 街道に出ればあとは一本道だ。テリス村方面への看板を見つければ、目と鼻の先となる。

 踏み均された道は、左右に木が植えられていた。傾斜には階段を作り、誰が見ても“道”と分かる形状をしていた。

「ここは見た記憶があります」

 そういった彼は一度立ち止まると、辺りを見て頷いた。

「恐らく私はこの道を行ったのでしょう」

 彼が指し示した場所には獣道。隣接する木々の間から覗く、森の暗さへと導く、生長した草に満ちた道だった。辛うじて人が通れるほどの広さだが、正確な道と間違えるほど道らしさはなかった。

 どうしたら勘違いできるのだろうか。不思議でならない方向感覚と決断力に、ルーシェは何度目かの苦笑いを浮かべる。

「一体何が起きたのでしょうね」

 普段の自分ならば間違えることがないと言うのに。彼は不満げにぼやく。地図を逆さに見ていたからでは? ルーシェは発しかけた言葉を呑みこんだ。

 村の目印は二つの櫓とひとつの門。テリス村自体は厚く長い木塀で囲まれている。少し離れた標高の高い位置から見れば、それはさがら鉢植えのようだった。

 広場にあるのは誰が植えたか分からない樫の木。村を守るように植えられているのも、やはり樫の木だ。

 看板を左に曲がり整えられた坂道を少し下れば、漸くテリス村に到着できる。

 今いる地点はどの辺りなのか。ルーシェは道の先を見据えた。遠くには小さな板がこぢんまりと置かれ、それが看板だとすぐに気づいた。

「神父さま、あと少しです」

 周囲を見回していた彼の袖を摘んで引っ張り、ルーシェは道の先を指差した。

「あの看板を左に曲がれば、二つの櫓が見えてくるはずです」

「分かりました。では行きましょう」

 歩き出した彼の背を、ルーシェは追う。

 胸には一抹の不安があった。たとえ彼が他の聖職者と違ったとしても、ルーン教に属していることに変わりはない。

 彼が自分と出会ってしまったことで、村の人々は強攻策に出る可能性も否めなかった。

 かつてひとりの聖職者を追放し、その後も多くの聖職者を追放してきた。その内の数名は行方が知れない。

 村人が手を下したのだろうか。真実は誰も知らないらしく、しかし誰もが過去の事件については頑なに口を閉ざす。

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あきゅろす。
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