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 紳士然としながらも、心は野心に満ち溢れ、信者に牙を剥く。平然と聖職者にあるまじき行為に耽るかもしれない。

「おかしな人ですか。よく言われます。以前いた教区でも、やはり形を変えて言われました」

「形を変えて?」

 頷いた彼は目に見えて落胆した。

「言い方を変えただけで、不思議な人もおかしな人も、変な人と同義です」

「たしかにそうかも……だって、わたしにあんなこと言う人なんて、絶対いないから……」

 この姿で生きるには様々な制約があった。村民はその制約を知り、庇おうとする。

 神に愛された者。その姿はある意味では神聖で、ある意味では邪悪とされる。あまりにもその姿をした人間がいないがために。

 髪と瞳がありえない色をしているとはいえ、それさえ除けば普通の人となんら変わりない。人としての姿をしていなければ、生活に支障をきたすほどの制約などなかったかもしれない。

「私は偏屈な人間のようです。師にもそう言われたくらいですから、相当なものなのでしょう」

「自覚はないんですか?」

「あればなおしています」

 大真面目な顔で言い切った彼の言葉に、ルーシェは再び笑った。

×××

 風を遮るものがないためか、夏にしては肌寒い。ルーシェは膝を抱え、身体を丸めた。

 明かりを使えば魔物をおびき寄せることにもなりかねない。そのために火は焚いていなかった。

 普段はこれほど冷えることはないが、山頂付近となれば話は変わる。村よりも高い場所にいるとすれば、寒さは当然だった。

 身体が震えた。腕には鳥肌が立ち、ルーシェは体温を逃がさないように、さらに身体を縮めた。

「寒いのなら仰ってください」

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あきゅろす。
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