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 冷気を溜め込んだ室内は、ほのかに花の香りが漂っていた。

 君主――自らを地帝と呼ぶ若き国王の御前に、少年は平伏すように片膝をつく。

「お久しぶりでございます」

 地帝アンドリューは深く椅子に座ったままで、微動だにしない。
 互いを遮るのは、天井から下がる、星屑の煌きに似た薄い幕。君主の顔を盗み見ようと上げた一対の目は、氷と形容できる冷たい微笑みの青年を捉えた。

「……久しいな、マックス」

 女性の柔らかな声音は確かに青年の発したものだった。

「壮健なご様子でなによりです」
 再び視線を床へと落とす。

 どこかきつそうな印象を与える目元は、微笑みに対して笑っていない。

 悪い冗談だ――少年は言葉にせず、心の中で思う。

 まだ若き国王アンドリューは、大国となったこの国の一部、特に腐敗した地方を切り捨てた。言い方を変えれば、それは独立を認めたことになる。だがアンドリューは崩壊しかけた地方から火種を持ち込まれないようにしただけだ。地方の多くは国に従属することを願った者が多かったという。

 救いを求める国民の手を振り払ったのは、彼の冷酷さがさせたこと。

 いかなる不正も許さない。領主の不正は民の不正でもある。半ば見せしめのように一部を切り捨てたことで、隣国から批判を受けた。

 ゆるやかに曲が流れ始める。オルゴールの高く澄んだ音色が奏でるのは、青年が弾く弦だった。

「和平の話が持ち上がった」

 アンドリューは静かに曲を奏でながら言った。

「ファン=グレードからの闖入者の問題も、最早内々で済ませられるものではない」

 マックスは顔を伏せたまま、国王の言葉を噛み締めるように聞く。

「一介の神父如きに任せた私の判断が誤りだったか……」

 強く爪弾いた弦は、怒りによって断ち切られた。荒れ狂う青年の感情の如く暴れ、不協和音を増長させる。

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