銀色世界で二人三脚
可愛らしい訴えと事務長っ!
それは、坂田銀時と畑山進後が昼間に初めて顔を合わせた数日後。
万事屋では今朝も遅く起き、新八がいつの間にかつくっていた朝食を食べている。
「銀ちゃん」
神楽の問から、今日は始まったと言える。
「あ?なに神楽」
「次はいつアイツに会えるアルか?」
………。
「アイツ?って…ああ、京に修行に出ちゃった山原?名人が居るからって、よくやるよなぁ。駄目だぜ『会いたい』なんて言っちゃー。山原を送り出した気持ちを思い出せ!」
「違うネ!あの馬鹿のことヨッ!」
神楽は箸をテーブルに叩きつけ抗議するが、それ程で止まる者はココに居ない。
「確かに山原のヤローは、いっつも和菓子和菓子で頭が一杯でよー。俺達からすれば、馬鹿だったぜ?」
「僕らはいま銀さんが馬鹿に見えます」
「でもよ…。アイツが一番輝いていたのは、和菓子つくってる時だって俺らは気づいたじゃねーか。そーして応援してよ、送り出した時の山原の背中……デカかったろ」
「何の話だァァァ!!」
ガゴォッ
神楽が銀時をテーブルに叩き潰した。新八は突っ伏す銀時を一瞥すると、新聞に目を戻す。
「誰だヨ山原ってェェ!山原の背中なんて微塵も興味ないネ!!」
「神楽ちゃん、味噌汁こぼれちゃうよ?座って食べて」
「うるさいネ駄眼鏡」
ピクッと新八は怒りに身を任せそうになるが、言い合いによって良い結果になったことはないので、我慢できる範囲はしない。
それは、新八が畑山進後から少し学んだことだ。
少年がまた大人になった瞬間だった。
「いつつ。チャイナ娘は朝から元気いっぱいかコラ。…で?アイツって誰だよ」
復活した銀時は、こぼれたものを布巾で片付けながら促す。
「…進後ヨ」
その名前にキョトンとなった。それに新八が補足を入れる。
「僕が『銀さんと畑山さんは夜の呑み友達』だって説明したんです」
「いつも二人で呑んでるのカ?そんなのズルイネ!私も連れてくヨロシ!」
ドーンと胸を張る神楽。銀時は頭をかいた。
(何を偉そうに。悪いが、返事は決まってる)
「あ〜。すまん、無りぃゴァ!」
ヒュッ ガッ
神楽はテーブルに手をつき体を浮かすと、銀時に蹴りをきめた。
「っっ!!てめっ…いま食ったもん出るかと思ったじゃねーかァ!ぅえっ!口ん中すっぺ!!」
銀時がそう言っても、神楽は知らない顔だ。
「私も連れてけヨ」
の一点張り。
「無理言うな。オメーみたいな小娘を大人の街に連れ出せるか!」
「昼間出歩いてるアル」
「夜だからいけないんだよ。神楽ちゃん」
新八の言葉に頷く。
流石に、連れていけない。いけない理由は様々あるのだ。
「新八ぃ。お前だって恐ろしさをしってるだろ?神楽に言ってやれ」
「お酒は未成年者だから飲んじゃ駄目だよ?あと、酔っ払いが絡んでくるかもしれないよ?」
「進後がいれば酒は興味ないアル。酔っ払い如きに手は出させないネ」
「…は!?なんか言い方違くねェェ?!なんか行く前の確認みたくねェェェ?!」
連れてく流れでは、困るのだ。
「銀さん、少しでも駄目ですか?僕もできれば会いたいです」
「どうせ、どこかのしょぼくれた居酒屋ネ」
「いや……居酒屋っつうか…」
毎週、畑山進後と呑み交わすのは、如何わしい店の立ち並ぶ中の一つで。
しかも『オカマバー』なのである。
(あんな教育上宜しくない場所に、少年少女を連れて行けるわけがねー!)
「・・・そんなに進後君に会いたいのか?」
「もちろんアル!!」
「はい。ぜひお話ししたいです」
ためしに聞けば、少年少女から元気なお返事が。
(困った。やべーよ)
朝から大問題に頭を抱えてしまいそうだ。
(仮に連れて行くとして、だ。進後君を慕うコイツらはオカマバーを見て平気でいられるのか?幻滅すんじゃねーか?神楽とか暴れでもしたら・・・)
地獄絵図を頭に浮かべて、冷や汗が出た。
「無理無理無理むりィィィ!!そんな恐ろしい事できるか!」
「なんでアルか?!進後にも聞いてみなきゃわからないネ!」
二人ともテーブルに足をあげ睨み合う。
そのやりとりを地味に大人しく見ていた新八が、さも名案とばかりに声を上げた。
「銀さんこうしましょう!今から、畑山さんに電話して聞いてみて下さい。それでも駄目ならしょうがないです。その代わり、休みの日に会える約束を取り付けて下さい」
「それならどっちでも会えるヨ!銀ちゃん電話しろヨ」
銀時はイヤだという表情をしたが、新八の姉ばりの静かな笑みと神楽の「早くしねーと殴るぞ」という言葉に、しぶしぶ頷いた。
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