絡繰-カラクリ- 絡繰屋敷 彼女が出てきたのを見て、男はにっこりと微笑みかける。 まるで、大丈夫だ、と言い聞かせるように。 「はじめまして、お嬢さん。ようこそ…絡繰(カラクリ)屋敷へ」 そう言った彼に、アヤカは首を傾げた。 「から…くり…?」 「はい」 「………………」 「まだ、分からなくていいですよ」 ……まだ、ということは、いつか分かるべきなのだろうか。 ますます分からなくなって首を傾げる彼女に、彼は優しげな笑みを向けた。 「後で、まとめてお話しましょう。分からなくて当たり前なのですから」 「はぁ…」 「あ、申し遅れましたね」 そう言って、男は自らの胸に手を置いて、話しだす。 「私は、朔矢(サクヤ)。姓は神薙(カンナギ)です」 「かんなぎ…さん」 確かめるように繰り返すと、クスリと笑って言われた。 「サクヤでいいですよ。アナタは自分の姓を知らないから、自ずと私たちはアナタの名を呼ぶことになるでしょう?」 不公平じゃないですか。 優しく笑ってそう言った。 「え…?なんで私が名前しか知らないこと…」 「あぁ失礼。実はさっきから聞いていました」 「えぇっ…!?じゃあ…」 私、隠れた意味無かったってこと?! 寧ろ、いなくなってたらおかしいんだから…隠れちゃ駄目だった…?! 自分の失敗に、赤面してアヤカは俯いた。 「…す、すみません…」 「いえいえ、黙って聞いていた私が悪いのですから」 そう言って微笑みかけてくれたサクヤの顔を見て、アヤカは少しだけ安心する。 「では、サクヤさん…で」 「はい。よろしくお願いしますね、アヤカさん」 優しそうな人だ。 裏表のない笑顔を向けられて、アヤカは自然と微笑んでいた。 [*前へ][次へ#] |