[携帯モード] [URL送信]

絡繰-カラクリ-
気になること


『一歩も出るんじゃねぇぞ』

そう言われ、アヤカは言われたとおり、部屋から一歩も出ずに。
それどころか、布団の上からも全く出ずにシスイ達の帰りを待っていた。

――勝手に部屋の中とか見られるのは、良い気しないしね…。

そんなことを思いながら、じっと三角座りをして待つ。

実は二日前からずっと何も食べていないため、お腹が背中とくっつくのではと心配になるほど、空腹度は高い。

しかし、人に世話になる身で、贅沢を言うつもりはなかった。

ぐぅぅ〜

「…ぅ……」

しかし、残念ながら体は正直だ。
アヤカは一人、薄く頬を染めて、膝の間に顔を埋めた。


―――そういえば…


ふと、どうでも良いことが脳裏をかすめる。

どうでも良いけれど、それなりに気になる疑問。

「なんで…、みんな和服…?」

みんな、と言っても今のところ二人にしか会っていないのだが。
余りにもその二人が、その状態が当たり前だと言うように振る舞うので、つい聞きそびれてしまったのだ。

シスイは菫色の下地に、山吹色の模様をあしらった着物。
ナツキは茶色に黒帯の着物をそれぞれ着ていた。

アヤカはというと、昨晩から着ている仕事着のままだった。

全身が、闇に溶ける黒ずくめ。
夏なのに、口元を隠せるハイネック。
手の先まで隠れるゆったりとした袖口は、和服と似ているかもしれない。

それでもこれは、動き易さを重視して作られた、仕事着だ。
和服、とは全然違う。

「夏だから…?って言うか…、そもそも…ここは…」

―――ここは、何?

一般の家庭ではない。それは分かる。

建物の造りは、多分全て木造の和風造り。

そして、この部屋の広さからして、建物だけでもとてつもなく大きいだろう。

―――何かの組織かな…。だったら…

一般家庭に転がり込むより、大分良かった。
迷惑も、多分、普通より減る。
守ってもらいやすくもある。

心の中でそう考えて、安堵していた時。


突然、なんの気配もなく、襖がカラリと静かに開いた。





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!