流竜神話 焼けるような痛み 耳をつんざくような咆哮が轟き、同時に凄まじい妖気が爆発した。 びりびりと肌を侵すその感覚に、少年はただ歯を食いしばって耐えている。 決して、目を閉じてはいけない。 どんなに甚大な気がぶつかってこようとも、その瞳でしっかりと、視なければ。 あぎとがぐわりと開いて少年に向けられる。 逃げ出したい衝動に支配されそうになる心を叱咤して、少年は必死にその場に立っていた。 「邪魔だ」 煩く早鐘を打つ鼓動とは全く相容れない静けさを持った声音が、気を張り詰めた少年の耳朶を打った。 瞬間。 とびかかる異形の妖。 預かった神剣を重さに任せて振りまわしながら、少年は必死で湖へと続くただ一つの道を護っていた。 ここだけは。ここだけは絶対に。 そう誓って、自分はここに立ったのだ。 だから、それを違えることだけはしたくない。 絶対に。絶対に。 この命に代えても。彼女だけは。 不意に。 目の前が真っ赤になった。 「……………あ……?」 理解がすぐにはできず、ただ呆然と少年は立っていた。 肩にかけられた鋭い爪と、 自らの顔右半分に深々と突き刺さった異形の獣の牙を感じながら。 [*前へ][次へ#] |