流竜神話
夜の道なき道
木々が
夜の冷箭(れいせん)を受けてざわざわと騒ぐ。
空に浮かぶは、朧気な光を放つ弦影。
その、弓弦を張ったような姿が、空を覆う闇色の雲間から少しばかり覗いて微かに世界を照臨していた。
道は無いに等しく、手入れされていない雑草が辺り一面に生い茂っている。
そんな道無き道を、躊躇の欠けらも見せずに突き進む、一つの影。
薄い素影に照らされたるは暗い紫がかった髪色に、顔の右半分を覆い隠す白い包帯。
青碧の着物に浅葱色を基調とした衣を羽織って、上からまとめるようにして腰帯で止めている。
黒い袴が草を無造作に掻き分け、腰に携えた一本の刀がその後に続いた。
歩幅は一定。進む速さもまた同じ。
月が、雲に隠れた。
瞬く間に、闇が世界を凌駕する。
暗く、寒い世界を。速さを変えずに、彼は進んだ。
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