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流竜神話
足りない力


「……お前は、何を考えている」

流雫が、音菊に不服そうな眼差しを向けた。

「何の話だ?」

「……知らんとは言わせんぞ」

それを聞くと、音菊はにやりと口角をあげた。

それを見て流雫は呆れ混じりの息をはく。

「ったく…、いらんとぼけをするな」

「愛敬があっていいだろう?」

「どこが。いいから話せ」

べしっと軽く音菊の後頭部をはたいて、流雫は先を促す。

流雫は先程から機嫌が悪い。
理由は言わずもがな。先程の娘だろう。

「なんで、あの娘に近づいた。祓われたらどうする」

「俺は龍神直轄の神官だぞ。あんな小娘に祓われるものか」

「だが…っ」

珍しく声を荒げて流雫は言い募った。

「あの力は、予想以上のものだった…!お前が、一番分かっているだろう…!?」

「まぁ確かに本気で祓われたら危ないだろうな。だが、そんな気であれば声をかけたりせずに、通りかかったところで殺られていただろう。だから今回はとりあえず殺されないと思った」

それに、とキクは諭す口調で言葉をつなげた。

「まだ敵だと決まったわけでもなかろう?」

「………っ……」

断言する音菊の目は強がっている類のものではなかった。故に、何も言えなくなってしまう。

今の会話は、言外にお前はまだまだだと言われたに等しい。

悔しかった。腹立たしくもあった。

なによりも、彼女と対峙した途端、自らの早鐘を打つ心臓の音しか聞こえなくなった自分が腹立たしくて仕方ない。

それほどに、彼女の放つ気には威圧があった。


「……っ、もう知らん…」

まだ、足りないのか。

これでも、まだ…。

そんな彼を式神はその紅い瞳でじっと見つめ、言った。





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