流竜神話
霊牙の郷
急いでいるわけではない。そもそも歩く速さ自体、余り急いたものでもない。
辺りを帳(とばり)の如く覆う木々により、月明かりが消えれば足元さえはっきりとしない漆黒の闇に襲われる。
常人であれば、月が隠れた途端、闇に足が縛られ、一歩も動けなくなってしまうだろう。
何処からか響く、狼の遠吠え。
時はとうに子の刻を半刻ほど過ぎている。
――突然、視界が開けた。
彼は目を細める。
そう遠くない道の先に、一棟の、それなりに大きな門があった。おそらく関所だろう。
あいにく、身分を証明できるものは持ち合わせていなかった。
彼にとってはそんなもの必要ないのだ。むしろ、あっては困る。
彼は、立ち止まって考えた。
――さてどうするか…。
噂を聞くかぎり、身分のはっきりしない旅の者を歓迎する地域ではないだろう。
彼が流れてたどり着いた地。
その名を、
霊牙の郷という…―――
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