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流竜神話
天地の國
 

「天地の國」とも呼ばれるそこは、何よりも政治の乱れと、そして貧富の差が顕著に表れた土地だった。

故に、絢爛豪華な屋敷が幾棟も立ち並ぶ傍らで、一日を生きることさえ儘ならない人々の生活が垣間見える。

さらにその下の隷属ともなれば、一日どころか一寸先すらも闇だ。彼らが何をもって今日を生きているのか…――


朝の賑わう市の中。
人混みに溶け込み、ゆったりと店の合間を徘徊する彼には、甚だ疑問であった。


―――……そろそろ…


霊牙の警備兵たちが動きだしたらしい。

所々で彼らが忙しく情報を回し合っている様子が見られるようになってきた。

言うまでもなく標的は、関所番を声も出せぬうちに昏倒させ、此の郷に無断で立ち入った自分だろう。

目立たぬよう、普段から右顔の包帯を隠すように深く笠を被き、黙形術で気配を人々の記憶に残りにくいようにはしているが、このままでは見つかるのも時間の問題だ。

彼は小さく舌を打つ。


やはり…。式だけでは数刻ばかり誤魔化すのが限界だったか。

口には出さずそう考え、彼はしかし、足取りを変えぬまま市を廻った。

もうすぐこの郷でなんらかの祭が行われるらしく、市はその支度に追われてかどこかしら賑わっていた。


――まったく……――


突然。
何もない空間から、凛とした声が響いた。





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あきゅろす。
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