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桜界逸史
響く絶望の音


ピィィ―――――!


広い、広い、競技場。
その二階に、作られた笛の音が響き渡る。

ただし、試合開始のものではなかった。

「試合終了!結果…」


そのあと続いた言葉に、観覧席にいた少年は身をかたくした。

まさか…

「両者、相討ち!」

兄さんが、相討ち…だなんて。

今まで、連勝記録を重ねてきた兄が、相討ちとはいえ倒れたことに驚きを隠せなかった。

「あ…兄さ…」

「なんだ」

声をかけに行くと、じろりと睨まれた。

そのまま黙りこくっていると、兄は不機嫌なまま少年から目を逸らして言った。

「………俺を励ましに来たんなら…帰れ、ナツ」

口調は悪かったが、ナツ、といつも通りに呼ばれ、少年の緊張は一瞬ほぐれた。

しかし、一瞬は、たかが一瞬だ。

「で、でもさ、兄さんだって…」

「倒したけどな。でも、駄目なんだ…相討ちじゃ、意味が無いんだ…っ」

口調は、強かった。

「…な…なんで…?」

聞いたら、いけない気はしていた…。

でも…。
兄さんが…見たこともないくらい、優しく、優しく、笑っていたから…。

「和柄」

「…!」

違う。そうじゃない。
優しそうに、けど、とてもとても…悲しそうに、笑っているんだ。

兄さんは、その表情のまま、目を逸らさずに言った。

「…ごめん。ごめんね、“和柄”」

「………にぃ…さん…、どうして…」

なつ…か…

あぁ、あぁ
なんて嫌な名だろう。

ナツ、ではなくあえて名前を呼ばれた。

これは、いつもの兄さんじゃない。
いつもの、僕に優しくしてくれる兄さんじゃない。


和柄という名前は元々、好きではなかった。

響きが女の子みたいだったから。

それに……、理由はもう一つ。


それでも兄さんが、ナツ、と、その名前をくずして呼んでくれるならいいと思っていた。

なのに…

『和柄』

こんな名前、大嫌いだ。





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