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桜界逸史
桜界国の過去

むくれる摂陸に頑張れよーと言い残し、射撃訓練場をさっさと後にした志國は違う号館にある自室へ戻って過去の書類を整理しはじめていた。

『銀』の隊の最高責任者に位置する志國にとってこのような事務的な仕事は日常茶飯事なのだが、いまだにこの手の仕事は好きになれない。

面倒くさいというのが一番の理由だ。
もちろん誰にも言わないが…

束になった過去の書類を振り分けていく中、ふと目に止まったのは古い新聞の切れ端。

書類の中に紛れていたのか少し黄ばんではいたが、無意味に大きく印刷された文字を読み取るのにさほど苦労はしなかった。

『大不況!相次ぐ捨て子事件!』

自然に顔が歪んだ。
桜界国という国は元来、『植民地を手にする為』といったように、積極的に争いを繰り広げる国々には属していない。
しかし、それはこの国が戦争をしていないということでは決してなく、自主的に参加しないだけである。

つまり、他国から依頼を受ける場合と自国を護る場合に限り軍事力を行使するのだ。

この国の軍事力を求める他国からの争いの依頼はいつもいっぱいだった。

三十年ほど前まで、桜界は他の国が真似をすることのないよう、武器の製造方法やその材料などは決して明かさないという条件で他国に最新技術の詰まった武器を貸し出していた。

それは、あの世界中を巻き込んだ一大戦争の時も。

とにかく大きな戦いだった。

桜界は戦争の依頼が追いつかなくなること考え、途中から依頼を全て拒否し、国の歳入のほとんどを武器の輸出に頼ることにした。
しかし、それがとんでもない悲劇に繋がってしまったのだ。

どんなに大きな戦争も、やがては各国で戦争の為の力が減少していくことにより、終戦とまではいかなくとも、とりあえずは一端治(おさ)まる。
この戦いは運よくそのまま終戦に結び付き、世界中が治まった争いごとに安堵していた。

そんな中、一つだけ慌てふためく国があった。

それがこの国、桜界国だ。

戦争が終わった途端に武器による歳入のあてはぱったりと途絶え、経済状況は地に落ち、かわりに失業率がうなぎ上りとなった。
あっという間に国は不況のどん底である。

というより寧ろ、この時の不況は恐慌といった方が正しいくらい深刻だった。
今までにここまで景気が悪い状態をほとんど経験したことが無かった桜界国は、不況時の対処の知識がかなり疎かだったため、大人たちでさえ慌てふためくしか無かったのだ。

そして、物が売れなくなり、ますますお金が無くなった国は国民からお金を集めようと一気に税率を引き上げた。
納税は国民全員の義務である。

これならば確実にお金が集まるだろうと国が考えた結果だったが、それは完全に間違いだった。

税を払えないものは国民としての資格を取り上げられる。
様々な権利を奪われる人々が少しずつ、確実に増えていった。

そしてこれにより、国内では悲惨な事件が多発するようになったのだ。

盗難、殺人、自殺、心中……

自らが生き延びるために他人を犠牲にして犯罪に手を染める者。
苦しい現実から逃げようと自ら生を断つ者。

そんな人たちが増えていく中で、特に一番多く見られたのが。

『捨て子』である。

余りにも数が多かったため子供を引き取る孤児院などの施設もさじを投げた。
しかし、だからと言って日に日に増えるその子たちを放って置くわけにもいかない状況で、当時の大人たちがとった処置は…。
街の至る所にこんな看板が立てられるようになった。





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あきゅろす。
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