桜界逸史
思いがけない登場
「どんな感じの場所がいい?」
弥泉がコントロールパネルを操作しながら言った。
組み手に入る前に行う、セッティング、つまりは戦闘状態の設定だ。
ここでフィールドや気候などを入力すれば、その通りにバーチャル再現してくれる。
「俺的には障害物が無い方が良いんだけど」
そんな摂陸の言葉に空雉は困ったように笑った。
「おいおい、そんなことしたら君の一人勝ちになるじゃないか」
「あ、バレた?」
「銃撃戦になったらアンタんとこの班が勝つに決まってるものね」
障害物が多いと銃使いには分が悪い。
逆に少なければ、相手には弾丸を防ぐ術が限られるため、銃の扱いに長ける方に部があるのだ。
「チーム戦だから、一人勝ちはあり得無いがな」
海神は呆れたようにそう言ってから、弥泉に向かって言葉を続ける。
「本番を控えているので、歩月の戦場と同じ範囲を選択してくださいよ、普通に」
「あら、そう?真面目すぎじゃない?」
「訓練に真面目すぎもなにも無いでしょう」
「ん、了解」
弥泉はそう言いながらもあっさりと身を引くと、慣れた手つきでパネルをたたき、言われた通りに歩月の皇帝が住む城の周辺一帯と同じ地形を選んだ。
気候は曇り。
当日の歩月の天気を考えてだ。
雨が降る可能性も入れておく。
一通り設定が住んだところで、弥泉が言った。
「もうみんな集まったかしら?」
「あ、そっか。班員呼んだんだ」
「招集したこと忘れるってどんだけよアンタ。四人だけでやるつもりだったの?」
弥泉のあからさまに呆れた声に、摂陸がうっせーよと返す。
それを淡々とスルーして、海神が口をはさんだ。
「俺が見てくる。適当にチーム分けしといてくれ」
空雉が頷く。
「りょーかい、くじ引きでいいよね?」
「あぁ、頼む」
「じゃあ作んなきゃな、くじ」
このシステムには、チーム分けの機能は付いていない。
必要最低限の経費に押さえるためだそうだ。
よって、組み手のたびに、見合ったくじを作る必要があった。
「それなら俺が作っといたぞ」
「おぉ、サンキュ…って」
誰かの声に返事しかけて…。
「さっ…志國ぃ?!」
摂陸は素っ頓狂な声を上げた。
立っていたのは、桜界国家軍隊『銀』1のマイペースなトップ。
そして、
「…志國。俺は観覧席にいた方がいいのでは…」
「いいんだよ、俺がいるんだから」
その後に続く歩月の将軍、統虎だった。
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