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桜界逸史
天才:時雨 海神
 
摂陸の目に真っ先に飛び込んできたのは、窓から差し込む日の光で青光りしたクセの無い髪と淡い茶色の瞳。
完全に的に背を向けて、ゴム弾装填式の銃を構える少年の姿だった。

年の程は摂陸と同じくらい。


よくみると、摂陸と同じような十字の傷が摂陸とは逆の右頬に刻まれている。


少年は、当たるはずのないような姿勢で引き金を引いて……。

「うん、なかなか」

志國が腕を組んで満足気に頷いた。

一発目のゴム弾が的の中心に当たり、それを初めとして二発目、三発目と的の中心近くに当たる。
ゴム弾が当たるたびにどんどん的の紙は歪んでゆき、それに比例して、難易度が上がっていくにも関わらず、ゴム弾は中心の傍を離れない。
その後、やっと数十発目で的を外した彼の姿を見ながら、摂陸は不満げに口をとがらせた。

「あいつレベルはまだFじゃん。あれぐらい、俺だったらもっと…」

射撃訓練のレベルは大きく分けて13段階に分かれている。
レベルが1段階上がるごとに難易度は上がり、中でも一番の登竜門とされているのがレベルFだ。
そのレベルの一歩手前で実力が尽きてしまうものが多いのがそのわけだが、実際は10代でそこまでいく人も少ない。

「お前みたいに10代でレベルIまで行く奴が異例なんだよ。お前らの年齢ならレベルDが標準だろうが」

「標準なんか知るかっ、俺はあいつに勝てりゃそれで問題ないっ」

何故か胸を張る摂陸に、あのなぁと苦笑して志國は諭すように言う。

「そろそろ銃の腕だって認めてやったらいーじゃねぇか」

「んなこと…」

出来るわけがない。
海神に唯一、ダントツで勝っていると誇れるものは銃だけなのだ。
後は短剣の扱いが互角…ぐらいだろうか。

アイツには、何か一つでも勝っていたい。
何か一つでも勝っているうちは、まだ完全には負けてない。
海神には、負けたくない。

練習試合などで戦うと、摂陸が勝つこともある。
しかし、そもそもこういう世界では、その日その日のちょっとした体調バランスが勝敗を大きく分けるので、海神や摂陸ほどの高レベルの練習試合の結果は実力の勝敗にあまり関係がない。

「お前の気持ちが分からんこともないけどな」

志國はそう言って続ける。

「お前はもう十分すげぇんだ。海神の実力を素直に認めたって、お前が負けるわけじゃない」

「でもさぁ……この射撃訓練。過去に10代でレベルMaxになった奴がいるんだろ?」

俺も早く行きてぇんだよ、そこに。

呟く摂陸の頭を志國はポカッと叩く。
イテッと言って睨む摂陸を、叩いた姿勢のまま志國は見降ろした。

「あのな、よく聞け。その年でレベルIの奴が、んなこと言っても皮肉にしか聞こえんっ。いいからお前は焦るな。寧ろもっと慎重に生きろ」

「……何かそれさ、俺がバカみたいに突っ走ってる奴みたいじゃん」

「そうじゃなかったら何て表現するんだってぐらいそのまんまだろ」

「うっわ、やな上司」

「褒め言葉として受け取っといてやる」

仏頂面になってフィと横を向いた摂陸の頭を、志國はもう一度、今度は手加減してポンと叩いた。





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あきゅろす。
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