桜界逸史
二日前
競技場の使用手続きを済ませ、それぞれが班員に三十分後に競技場に集合するよう呼びかけてから四人は下準備のため競技場に向かった。
競技場は、名前からも推測できるように結構な場所を取る。
よって使用の予約が必要な上に、他の施設から少し離れたところにあるのだ。
その道すがら、弥泉は摂陸に向かって言った。
「手加減なんてするんじゃないわよ」
弥泉が言いたいことはよく分った。
弥泉の統率する第3班は一般的な班(つまり、摂陸、海神などが率いる班)と同じ条件で班員が決まっている。
だから、弥泉が率いているからと言って女性隊員ばかりが入っているわけではない。
ただ、班の中で一番実力のあった弥泉が班長をしている。それだけのことだった。
そう考えるとどこに手加減をする要素があるのかと思うが、弥泉が言いたいのは多分そういうことじゃない。
最後に、班長だけの戦いになった時に、手加減をするなと言っているのだ。
「頼まれたってしねぇよ。んなことしたら負けるだろ」
弥泉は、「女だから」と言われるのを極端に嫌う。
「可愛い」や「女の子らしい」といったような世間で言う褒め言葉は、弥泉の頭の中で逆説され「自分の身を守れない弱い存在」となるからだ。
それは桜界国軍の隊員としてはもちろんのこと、弥泉自身にも許されないことだった。
弥泉は摂陸の言葉に、ならいいわ、と頷いた。
そんな弥泉に、摂陸は言葉を続ける。
「大丈夫、安心しろ。お前を女だって思うのはどんな奴でも無理に等しいからな」
満足げにしていた弥泉の顔が、一瞬のうちにかなり曖昧な顔になった。
「……それ、褒めてんのかけなしてんのか、どっちよ」
「お好きな方でどーぞ」
「分かった。よくもけなしてくれたわね、後で覚悟なさい」
言いながら鋭く睨みつけた弥泉に、うわ、そう来るか。と怯んだ摂陸を見て、空雉は可笑しそうに笑った。
「本気でも本気でなくても、摂陸は銃器使うよねぇ。俺はどうしようかなぁ」
その言葉に一瞬ピクリと怪訝そうな顔をしたのは海神だ。
「いつもの使わないのか」
「え、なに?いつもと違うの使っちゃダメかい?」
不思議そうな顔をしてそう返す空雉に、海神は、いや…と曖昧な否定をして応える。
「お前は戦闘中に限らず、何を考えてるか分からないからな…」
「あはは、君にそれを言われるとはねぇ」
空雉の答えに、摂陸が密かに頷いた。
海神と戦い、彼の戦うときの流れや癖を見抜いたと思った時にはもうそれが変わっている。
相手が自分の動きに対処できるようになると、別の動きをしてみせるのだ。
「…………俺はいつもと同じ装備で行くつもりだが…」
「だからそれが怖いんだって。海神の戦法って何百種類あんのさ、いっつも違うじゃない」
「……企業秘密だ」
「あっそ、だと思ってたけど」
空雉は苦笑気味にそう言って、競技場の入り口をくぐった。
さて、久しぶりの合同演習。楽しみだねぇ。
出発まで、あと二日。
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