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桜界逸史
名前
 

「さっ、志國様っっ!!!」

それは、唐突に志國の言葉を遮った。


いきなり後ろから上がった声に、志國は思いっきり顔をしかめた。

「……俺は何っ回も…付き添いはいらねぇって言ったと思うけど?」

声は、さっきまでのトーンを忘れさせるほど重く、鋭く変わっている。

志國の名前を呼んだ男は、たじろぎながらも焦り声で言い返した。

「本部命令ですっ!
適当にかき集めた奴らで構成された軍が、桜界の軍の汚点になっては困りますから…!」

「またそれか。耳にタコだっつーの。何回も言うけど、俺に限ってそんな事まず無いから」

「さ、志國様っ…!とにかくっ、早くここから出ましょう!後は他の者に任せてっ」

おそらく、彼はここのプレッシャーに耐えきれなくなったのだろう。

まぁそれも、仕方がないというものだ。

志國でさえ、さっきまでこの空気に押し潰されかけていたのだから。

「早くこんなとこから出たい!」という風に喋る、頼んでもいない、付き添いの男。

それを志國は冷たく一瞥し、呆れたように溜息をついた。

男の方に向けていた顔を少年の方に戻して言う。

「わりぃ、ちょっと早いが時間切れみたいだ。また後でな」

また後で会える、ということをさりげなく伝えたかった故の言葉だった。

「…………」

「………ン?」

しかし、さっきまで明るい笑顔で応えていた少年が、何故かこの言葉には何かを考えるように俯いて応えない。

不思議に思い、志國は声をかけ直す。

「どうした…?何か…」

志國の言葉は、途中で途切れた。

志國の言葉にかぶせて口を開いた少年の声があったからだ。

「おにいちゃんは」

まるで、志國の声が聞こえていなかったかの様にそう言って少年は続ける。

「いいな」

続けられた言葉の意味が分からず、志國は無言で少年の次の言葉を待った。

「ナマエを、よんでくれるひとがいて」

おれには…。

そう言った少年は俯けていた顔をゆっくりと上げた。


「おれには、よんでもらうためのナマエがないから」


……冷たい風が窓から吹き込んで髪を揺らす。

志國は、その時何も言えなかった自分を今までで一番、嫌っていた。





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