桜界逸史
引き取りセンター
一通り看板を眺めた後、文面の一部を復唱して眉間にしわを寄せる。
捨て子とはいえ酷すぎる。
方法も酷いがせめて、もっと言い回しを考えられないものだろうか。
子供たちを完全にモノ扱いしていることに苛立ちを覚えた。
捨てたのは…親の勝手なのにな。
責任のない子供たちが酷い扱いを受けるのは道理じゃない。
実際目の前に座る何人もの『十字の子』を見ながら思っていた。
志國は、彼らを全て引き取るためにここへ来た。
これから、志國が隊長を任される「銀」部隊のメンバーに引き入れるつもりだったのだ。
このまま放っておくと、彼らは例外なく『殺処分』。
これ以上、犠牲者を増やしたくなかった。
すがらなければ助からないと知っていて、入隊を拒む子はいないだろう。
訓練すれば、どうにでも強くなる。
ただ、厄介なことが一つだけあった。
志國は彼らと同じような子たちを何人も街で見掛けている。
問題は、『十字の子』と呼ばれる子供たちの大半は目に生気が宿っていないということだ。
唯一目が生きていると言えるのは、幼すぎて状況を理解できていない子供だけ。
それ以外の子たちは全て、笑うことを知らず、大人たちに対して憎悪と嫌悪の眼差しを向ける。
世界の理をほとんど知らない小さい子供が、世界の全てを憎んだような眼でこれでもかというほど睨んでくるのだ。
おそらく、この子たちに受け入れてもらうことが最初の課題となるだろう。
こりゃあもう初めっからボス級の壁だな…
志國はここに来てからずっと前を向いて歩いていた。
周囲の子供たちの視線を直視できない。
自分がこの子たちをこんな目に合わせたわけじゃ無いと分かっていても、勝手に体が目を合わせることを拒んだ。
その凍てつくような視線に、何か悪いことをしたかのような錯覚を覚えさせられるのだ。
志國がその感覚で押しつぶされそうになった時だった。
「おにいちゃん…なにしにきたの?」
幼さを帯びたその声に目を向けて一番最初に志國の視界に入ったのは、彼の左頬に刻まれた
大きな大きな十字傷の後だった。
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