庶民シュート 桜木がバスケ部に戻って数日。 何故か闘志が燃えている赤木からの提案により、いよいよシュート練習が始まった桜木。 水戸たちは様子を見に体育館に向かった……が。 「……何故入らない」 桜木が打つレイアップシュートはボードの向こうまで行ってしまい、ゴールに入る兆しが全くなかった。 これを見た水戸たちは大笑いし、憤慨した桜木は帰れとボールをぶつけまくっていた。 『おー、やってるやってる』 そんな時、担任に呼ばれたせいで遅れて来た棗が水戸たちのところに合流した。 棗の登場に桜木は今日来るとは知っていたが、いざ本人が来るとなると緊張が走った。 「な……っ、棗!」 『頑張れ桜木ー、応援してる!』 「ま、任せとけ!」 マネージャーの彩子は水戸たちから今までの桜木のレイアップシュート練習の経過を聞いて困った顔をしている棗を見上げ、 彼女が来ると桜木が反応していることに不思議に思った。 水戸の隣についた棗はボールを持っている流川の姿を見つけて軽く手を振る。 『流川も頑張れー』 「んな!?」 (も……) ヒラヒラと手を振られた流川は「も」に引っ掛かりを感じたが、一瞬棗と視線を合わせると片手を挙げて合図する。 この何気ないやり取りに桜木だけでなく下で見に来ていたミーハーたちも反応し、憤慨した。 「何なのあの女!」 「気安く手なんか振って!」 『……』 不満を溢すだけ溢してやろうという勢いのミーハーたちだったが、見下ろす棗の視線を捉えて小さく悲鳴を上げる。 棗は熱狂的ミーハーが大嫌い。 汚らわしいものを見るような蔑んだ眼光は虎が獲物を捕らえたような威力を持ち、 何か言おうにも喉が潰されているかのような殺気による圧迫感に何も出来なかった。 幸い棗の百獣の王のような視線を見たのは彼女たちと水戸たち、それから彩子だけだった。 それから桜木の練習を見ることに集中し、いくらシュートをしてもゴールに入らない桜木を見て黙っていた。 ミーハーたちが桜木をバカにすると晴子は猛抗議をするが、彼女たちの地雷を踏んだのか突き飛ばされた。 流川がお手本をやるとなると、それらしいことをカッコ良く言っていた晴子はミーハーたちと同じようにキャーキャー騒ぎだして桜木の怒りが募った。 そしていざ流川がシュートを始めようとする時になると後ろから桜木は手が滑ったとボールを当て、 自分がするとなるとボードの微妙なところにボールがぶつかり反動が早かった為に顔面で受け止めることになった。 「しかし今のはかなり痛いぞ」 「流石花道、やろうったって出来ない器用な失敗をやってくれるぜ」 「力みすぎだぜ、全く」 『……』 赤木の説教を受けている間、あれから何も言ってこない棗に心配になった桜木。 そしていいところを全く晴子にも棗にも見せられてない悔しさに怒りの炎をふつふつと沸き立たせていた。 その一方。 水戸は下からの視線を感じて桜木から視野をずらす。 見えたのは流川で、彼の視線が桜木一点しか見ていない棗に向いているのに気付いた。 それは木暮がもう1回シュートを見せて欲しいと頼むまで注がれるが、棗の視線が桜木から離れることは1度もなかった。 (これは……) 水戸はひょっとしてとある考えが思い浮かんだが、まさかありえないと頭からその考えを振り払った。 木暮の説得に桜木が素直に謝って流川にシュートをお願いし、それを流川は承諾して穏やかな雰囲気になった。 ……と思いきや。 「おーっと!体全体が滑ったぁぁぁ!」 カゴの中のボール全部をぶつけ、ついにキレたのか流川も桜木にやり返し、最早練習どころではなくなってしまった。 桜木の流川への頼みの言い方から既に嫌な予感しかしなかった棗は呆れて物も言えなくなった。 (あぁ、見ていられない……) 事態は赤木を完全に怒らせたことで今日の練習は2人共禁止ということで片が付いた。 拳を食らった2人はコートの隅に立ち、水戸たちはやっぱりこうなったと呆れた表情で見下ろす。 「はっ! そうだ棗……!」 ギョッとさせた桜木は上を見上げるがそこに探し人の姿はなく、忙しなく動いている桜木の視線に気づいた水戸はやれやれと肩を竦めて口を開く。 「棗なら花道たちが騒いでる間に先に帰っちまったぜ」 「な、何だと!?」 「……」 桜木は最悪なところしか見せていないと頭を抱え、流川は棗が出て行ったであろう出口の方を見つめていた。 水(流川)と油(桜木)は最悪 (あぁ、明日棗に会ったら何て言えば……) (俺たちしーらね) [*前へ][次へ#] [戻る] |