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大きな星の橋の下

※荒川アンダーザブリッジパロ
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俺はクルル。
他人に借りを作らないことを信条に生きてきた20歳だ
何故なら俺は世界に名前を轟かせる有名大企業、KULULUSカンパニーの社長

会社を継ぐにふさわしい男になる


『他人に借りを作るべからず』
それだけを考えて
ささいな借りも作らず生きてきたというのに…


「くっ…!何で今になって…」

「あ、これガンプラっていうんだけど知ってる?
食べる?」


(こんな奴に


命を救われてしまったんだ!!)




大きな星の橋の下




「さっき着色済ましたばっかでまだ乾いてないんだけど…」

「結構デス!さっきのでもう胸がいっぱいなもんで!」

「あ、そ」


橋の下
川のほとり
まだ春先だというのに
ずぶ濡れで座り込む俺たちは
端から見たらどう見えるのか

たまたま隣り合わせた他人同士?
水遊びを楽しみすぎた友人同士?
それとも、川で戯れる恋人同士?
いや、どれも全く違う

俺たちは『貸し借り』というある方向からある方向へと一方的に権威が与えられる上下関係だ
そう
他人に借りを作らないことをモットーとしてきた俺には最悪の関係だ


(クソ…!どうする!?)

一体どうしたらこの借りを返せるのか
そもそもこの借りは返せるものなのか?
命の恩人っていうのは
つまりこれから先
俺が
カレーを食ってうまいと感じても
コイツのおかげ

カンパニーを継いで社長椅子に座っても
コイツのおかげ

俺のこれからの人生全部コイツのおかげ


(重い!!重過ぎんだろ
命の恩人ー!!!

一体どうすれば返せる恩なんだ!?)


俺は一人で頭を抱えてうずくまった
今までこんなに悩んだことがないくらいこの問題は俺を悩ませる
するとそんな俺を見て何を思ったのか
命の恩人もとい緑髪のソイツはすくっと立ち上がり俺をちらりと横目で見るなり


「そういえば服濡れてるでありますな」

「え?」

「ちょっと待ってて
家からタオルもってくるであります」


そう言うなりソイツは
スタスタと歩き出した
どうやらその行動の意図は
俺に気をきかせてくれたようだが
俺にとってこれ程の恐怖はない
これ以上借りを増やしたりしたらそれこそどうしたらいいか分からなくなる

俺は奴を止めるため必死で叫んだ「やめてくれ!
そんなわざわざ家まで…!家なんてっ……
え?」


だが奴の言う『家』というものは
俺の予想の斜め上をいくものだった
ソイツが家だと言って入って行った所に存在したものは

ダンボールで簡素に作られた壁
気休め程度に付けられた木製のお粗末な扉
床に敷き詰められた新聞紙


所謂ホームレスという人種の人間たちが暮らすその家
(仮)ってやつだった


「あ
そーだったそーだった…
タオルは床に敷いちゃってたんでありました…
……床使う?」

「いや…いい…」


俺は悟った
そもそも平日の真っ昼間から橋の上で一人釣りをしている時点で気付くべきだった

……そうか…
貧しいんだな…
そりゃあ大変だろうなァ…

これは正に


(借りを返すチャンス…)


俺はおよそ善人とは結び付かない笑みを引っさげて俺は奴に近寄った


「く〜っくっくっく〜
大変だろうなァこんな家だと…
立地的にも湿気とか騒音が酷いもんだろうなァ…」

「そうでありますか?」


キョトンとするソイツにたたみかけるべく
俺はさり気なく零す
これで貸し借りをなしにする為に…!


「あっ
そういえば俺この前ちィーっと株で黒出したんだっけ
だからまあ『8億程』自由に使えるんだよなァ…」

「?」

「よかったらアンタの為に『家』を
プレゼントさせてくれねェか?」

「……」


終わった…!!!

コイツにとって立派な家は喉から手がでる程欲しいはずだ…
これで俺の借りはチャラになる
一つのプレゼンが終わったときのように俺は達成感の混じった溜め息をついた

ところがコイツは俺が操れるような簡単な存在ではなかったらしい
俺はコイツの口から出た言葉に目を丸くして驚いた


「いらない」

「……く…?」

「いらないって言ったんでありますよ」

「な…何言ってんだ
どう考えたって寒いだろ!?
こんな…!」

「寒くないであります」

「いやさみィよ!
現に俺…せめて服とか」


予想を覆された俺は焦って身振り手振りで伝える

俺の経験からして問題を解決するには金が一番効果的なはずだ
なのにコイツはそれを要らないと言う
人間という生き物は己の汚い欲のために偽善と虚偽を繰り返すものだと思ってたのに
キラキラ輝く天使のような
真っ白な透明の心を持つ人間なんて存在しないと思っていたのに
もしかしてコイツは…!




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