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お題&企画
Please teach to me



*レイユリ♀





「嬢ちゃん〜、ユーリ―!」

「……」

「あ、」


発見。
何処にも居ないと思えば、庭の木の上で沈みかけた夕日を眺めていた。
こんな高い木に登るなんて、相変わらず身体能力が高い。
おっさんの体力では到底出来そうにない。
それは兎も角、もう直ぐ日が沈む時間だからと木の上の嬢ちゃん…もといユーリを連れ戻しに来たのだけれど、生憎ユーリは自分の存在に気付いていないようだ。
年寄りは大声を出すのも一苦労だってのに、全くあの子は。


「ゆ―り!」

「……おっさん」


…やっと気付いてくれた。

先程と変わらない姿勢のまま、視線だけをこちらに寄越して表情さえも変わらない。
微風に長くて綺麗な黒髪がゆらゆらと揺れていた。


「なあにやってんのよ」

「森の連中がどうしてるか気になった」

「…あ―、」


どうやら彼女は橙色に輝く夕日にも目を向けず、街の外にある森林を見つめていたらしい。
森の連中、といえば自分達人間で言う所謂魔物のことだ。
確か捨てられた赤子のユーリを親の代わりに育てたのがその連中で、不思議なことにそいつらはユーリに害を加えなかったという。何故人間であるユーリを敵対も無く育てることが出来たのか未だ理由は解明出来ない。


「ま、元気にやってるっしょ?悪さをしなければね」

「あいつらはお前等人間が思ってる程悪い奴らじゃねえよ。ただ生きる為に必要だからやってんだ」


彼女の言ってることは正論なんだな、としみじみ思うと同時、遠回しに人間と一緒にするなと言われているような気もする。
まあ、間違いじゃないんだけどね。

掛ける言葉も無く、ただいつものように苦笑を返した。
ユーリはそんな自分に気にする風も無く、腰掛けていた木の枝から立ち上がると一気に飛び降りた。
彼女が座っていたのは割と高い位置なのだと思うのだけど、予想に反し足の裏が地面についた時の音は軽い。
まさにストン、なんて感じの音だった。
どういう原理であんなに重力を軽減出来るのかは全くと言って良いほど理解出来ない。
体重だって一般人より軽いにしてもそれなりにあった筈だ。
森で育つとあんなに凄いことが出来るんだ、と初めは感激さえも覚えた。

「おっさん」

「なによ」

「あいしてるって、何?」

「ぶっ!!???」


ガツン、頭を鈍器で殴られる。
無論実際に殴られた訳では無いが、それ程の衝撃が全身に走った…ような気がする。
おい、誰だこの子にそんな単語覚えさせた奴は。

「あのな、カレンさんはリッチさんのことをあいしてるんだってよ」

「…あ―、お隣さんの夫婦」

誰かと思えば最近親父さんに認められただかで入籍した新婚夫婦の二人だった。
ユーリに吹き込んだのがそこらの悪ガキなら兎も角、あの仲良し夫婦なら流石に仕方ないかもしれない。

「あとな、リタがおっさんの事すけべだとか、へんたいだとか言ってたぞ。…すけべって何だ?」


流石リタっち、やってくれるわね。

近所に住む研究好きの少女を思い浮かべる。
ユーリが言っている単語は恐らく“助平”や“変態”なんて言うどれも自分の悪口としか思えない言葉。
最近の子供はこれだから、と思わず溜息が漏れた。


数年前まで魔物と共に生活していたユーリは言葉を知らなかった上、自分と出会うあの日まで“人間”という存在も知らなかったらしい。

彼女を保護した後に自分を待ち受けたのは、子供の教育であり彼女に言葉を学ばせることだった。
彼女の場合元々容量が良く大抵の会話は一年足らずでこなせるようになったのだが、そのお陰で必要のない言葉さえも覚えてしまうようになってしまったのだ。
特に先程のように近所の子供から言葉を吸収してしまうということが最近一番の悩みになりつつある。


「おっさんは、すけべ?へんたい?」

「だぁあっ、違う!違うからっ!!」


小首を傾げながら言われると、流石に心が痛い。
こういう時だけ目ぇキラキラさせたって、おっさんは騙されないんだからね!!!


「…なあ、おっさん」

「…な―に」


自分より少し高い身長で、顔を下から覗き込まれるような形になる。
決して悔しいとは思ってない。


「俺のこと、あいしてる?」

「…なっ!?」

「リッチさんとカレンさんみたいに仲が良い人が使ってるんだから、悪い意味じゃねえだろ?」


俺じゃなくて、ユーリのこと知らないお兄さんとかだったら簡単に引っ掛かっちゃうからっ!!

意味を知らないとは言え、お願いだから勘弁してくれと呟きたくなる。
しかし、彼女が恐らく“愛してる”を友情の類の言葉だと思いこんでいる為、愛してると言わなければ色々と勘違いされかねない。
だが言ってしまうのは、どうかと思う。


「…そりゃあ…悪い、意味なんかじゃないんだけど」

「じゃあ、俺のことあいしてるだろ?」


ええい、もう言ってしまえ。
別に嘘ついてるわけじゃないし、いいよね?

「…愛してる、よ?」

「はっは、おっさんやっぱりスケベ」

「…はえっ!?」

「意味、教わってみれば何となくわかった。女好きってリタが言ってたぞ」


悪戯が成功した子供みたいにニヤリと笑って見せてさっさと家に向かった彼女に、しかし反応が遅れてその背中をしばし見送る形になってしまった。

徐々に小さくなっていく背中を見つめながら頭をがりがり掻く。
彼女の不意打ちに痛いところをつかれ、情けないと小さく笑いが込み上げた。


「…スケベ…女好き…。いやあ参ったね」

「おっさ―ん、早く帰るぞ」

「へいへ―い」



失礼ね
俺はユーリしか見えてないのに!!


君は特別だから


出会ったあの日から、好きだったんだよ。



end


…なんだこれ(笑

十万打リクの『魔物に育てられた♀ユーリ』でした。
…設定を生かせませんでしたあああごめんなさいっ。
男前なのに言葉がたどたどしいなんて良い設定をいただいたにも関わらず、アホなんだか賢いんだかわからないユーリちゃんになりました。
しかも勝手にレイユリです。

簡単に補足しますとおっさんは猟師とかそういう類の仕事してます。
でもって偶然赴いた森の中で偶然ユーリに出会って「保護!!」とか言って拉致(←)
まあそれから色々あるわけですが、とにかくユーリはおっさんと暮らすことになったのでした(適当だな)
思えば、あれはおっさんの一目惚れだったんでしょうね。
多分ユーリじゃなかったら保護しないで放置ですよ。流石おっさん。





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