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雪に咲く花
ページ:7
「弟はね、9年間の記憶は確かに消えた。しかし、決してなくなったわけではないんだ」
雪斗には、黒崎の言葉の意味はすぐに理解出来ない。
「記憶というものは決してなくなったりはしないと思う。ただ眠っているだけなんだ。その証拠に、弟が体験した恐怖だけは、体が覚えていたんだからね」
「亘の記憶も眠っているだけなのかな?」
「勿論そうとも。その人の中で君のことは頭からは消え去っているかも知れないが、身体のどこかでは覚えているはずだ。もし、その人にとって君がかけがえのない人なら、いつか必ず、身体が反応するはずだ」
「でも、今の亘は、俺のこと嫌っているみたいだし……」
「今の彼にとって君は見知らぬ人なんだ。ただ、君を警戒しているだけなんじゃないかな?人によっては、よく知らない人に関しては疑ってかかるもんだからね」
「そういえば……」
雪斗と出会う前の亘は、複雑な事情があることから、親しい者以外には簡単に心を開かなかったと聞いたことがある。
一見、穏やかに見えるが、根は意外と頑固なのだ。
亘の母親に関わったことで、そのことを初めて知ったのを思い出した。


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