[携帯モード] [URL送信]

読み物(表)
2
部屋から出てすぐ日向は立ち止まった。
「で、日向君。さっきの予算じゃ駄目だったの」
ミサトは日向に確認するように視線を向けた。丁度、蛍光灯の光が目に入り、眩しい。
一方日向には、ミサトの二重で黒目がちで涼やかかつ華やかな目、形のよい唇、豊満なバスト、引き締まった腰、適度に筋肉がついた細い手足しか目に入っていなかった。
「葛城さん…」
いつもより熱っぽい日向の声が気にかかった。
「はい?」
「失礼します」
「え、やだっ…日向君…!ちょっと!」
日向はミサトをいきなり抱き上げ、お姫様抱っこの形で走り出した。
「日向君一体何なのっ」
日向はミサトの声に構わず走っていく。
「アスカさんに頼まれました」
「はいぃ?」
「葛城さんを連れてこい、と 」
日向の太ぶちの眼鏡が光に反射し、ぎらりと光った。

遡ること数十分前、自販機のある休憩スペースで、アスカは日向に声をかけて、ある約束を交わしていた。
「あの、日向さん、ちょっと…」
あまり日向に声をかけることがないアスカに呼ばれ、日向は物珍しそうにアスカに近づいた。
「何だい?」
「お願いがあるの!ミサトを捕まえてここに連れてきて欲しいの」
「捕まえる?葛城さんを?葛城さん、確かに忙しいし、中々捕まらないもんなぁ。別にいいけど…何で」
「土曜日にミサトと109に行かなきゃ行けないんだけど、ミサトが赤木博士に捕まりそうなの!だから助けて、お願い!」
「はぁ…」
日向はずれた眼鏡を掛け直した。
「勿論、無事に捕まえてくれたらお礼もあるわ…」
アスカが鞄から一冊の冊子を取り出して、日向に静かに伝えた。
「か…葛城さんの、しゃ、写真集…」
「そう」
アスカは小悪魔のような笑みで日向に写真集を見せびらかした。ミサトの同居人だからこそできた写真の数々である。


そして、ミサトをお姫様抱っこして強奪し、今に至る。
「 ちょっと日向君!離して」
ミサトは思い切り日向を殴るが、びくともしない。勿論ミサトも鍛えているので殴るといっても普通の一般女性の威力ではない。
しかし、日向には恐ろしく効かなかった。ミサトの写真集が欲しい、という欲求が麻酔のように働いていたのである。
日向の目前にはアスカが見えていた。
「アスカちゃん!連れて来たよー
日向の息が荒くなる。
「ありがとー、日向さーん!そしてcome
on!ミサトぉっ」
アスカは写真集を振りかざしながら日向を迎えようとしていた。
しかし、アスカを目前にして日向の前には黒服とリツコが立ちはだかった。
日向は黒服にいきなり押さえつけられ、代わりにミサトがその反動で宙に放り出される。
「ええっちょっと待ったぁぁ」
すかさず、宙に放り出されたミサトを別の黒服がキャッチした。
「こらぁぁ離しなさいよぉ」
そこには麗しき作戦課長の姿は無く、ただのじゃじゃ馬がいるだけであった。
「ミサト、素直にサインしてくれれば済む話なのよ」
リツコが冷徹に微笑む。
「きぃっ!赤木博士、卑怯よ!」
アスカが牙を剥く。
「もう、こうなったら…」
ミサトは黒服に抱えられた腕を基点に力をかけ、足を上げようとし、バク転や逆上がりのような形で黒服から逃れ、走り出した。
「逃げるわ」
「あ!」
アスカとリツコは口を揃えて声をあげた。


逃れたミサトは静かな場所に身を移したくなり、ネルフ構内から出ていた。あたりは木々に囲まれ、薄暗くはあるが、先ほどのドタバタ騒ぎに巻き込まれるよりは幾分ましだとミサトは思った。
「もう嫌…疲れたわ」
ベンチに座り、持ってきたノートパソコンを広げる。あまり電池残量が無いため、長時間は仕事を出来そうにはなかったが
「さて、仕事、仕事っと」
文書作成ソフトを立ち上げ、息を整える。
落ち着こうとした直後、ミサトは眩い光に包まれ、思わず目を閉じた。
「 戦術作戦部作戦局第一課課長 葛城三佐、あなたは完全に包囲されています。大人しく赤木博士の書類にサインをするように」
例のごとく、光は諜報部の黒服軍団によるものであった。ミサトはあまりの事態に頭を抱える。上には何時の間にかVTOL機まで飛んでいた。
「リツコ…あなたは変なところ大馬鹿よ」
ミサト立ち上がり、黒服軍団を眺めるように見て、地面に手をついた。
「無駄な抵抗は止して下さい」
黒服は牽制するも、ミサトは悪戯っぽく笑い、地面にあった手すりのような物に手を掛け、勢いよく上に持ち上げた。上に持ち上げたそこには階段が続いていた。それはネルフ構内に続く地下シェルターへの入り口だったのだ。
「じゃ!」
ミサトは素早く中に入ると、ロックをした。シェルターへの入り口であるので勿論頑丈に作られており、中から閉められると、そう簡単には開けない構造になっていた。
ドイツ支部から来たばかりの頃は、対テロ向けに複雑怪奇に作られたネルフ本部構内で迷うばかりであったが、今となっては隅々まで把握していた。
わざわざ静かな林の中に逃げて来たのも、シェルターで逃げるという先の事も見越してのことだった。
「私だってロクに作戦課長やってませんよーとっ 」
そのままミサトは地下シェルターへ向かう。
地下に進むにつれ、 外より幾分冷たい空気がミサトを包んだ。
「ちょっと寒いわね…うわっ」
妙に心配で、後ろをちらりと見ながら歩いていたところ、堅過ぎもせず柔らか過ぎもしない何かにぶつかった。
「何なのよ、もぉー」
「よお、これはこれは葛城三佐殿」
がっちりとホールドされた状態で上を見ると、加持の顔があった。
「げ…加持」
「何だか、リッちゃんとアスカが君を取り合ってるそうじゃないか」
「どうしてあんたがそれを知ってんのよ。で、何、あんたはリツコとアスカ、どっちの差し金なの」
訝しげにミサトは問いただす。
「差し金?何行ってんだ。俺は別にそんなんじゃ無いよ」
「んじゃ、何でここに居んのよ」
「アスカとリッちゃんの包囲網から察して、君がここにくると思ったから」
加持はへらへらとした笑顔を作る。
「ははは、こういう所はまだまだ甘いなぁ、葛城」
「腹立つわねー!っていうより、いい加減離しなさいよっ」
ミサトは改めて自分の体勢を認識して恥ずかしくなった。腕は気を付けの形のまま、加持にホールドされて、そのまま体を加持の胸元に預ける体勢になっている。
「それもそうはいかないんだ…命令でね。君を捕まえろって。碇司令がカンカンだぞ。はははは」
「は…」
ミサトは涙目になった。


加持に拉致され、碇の執務室に着くと、そこにはこってり絞られたアスカとリツコが居た。
「職権乱用、任務放棄…これらは全て許されるものではない」
「はい…」
リツコの髪型は何故かアフロになり、アスカも何故か傷だらけになっている。
ミサトはリツコの髪型を見て吹き出しそうになったが、どういう目に合わされるか分からないので何とか耐えた。
碇はミサトの姿を見るやいなや詰問した。
「葛城三佐、何故逃げた」
「…自分の任務を遂行するためです」
碇はミサトの話を聞いていて視線を戻した。
「 …元はといえば、今回の事態は赤木博士、惣流エヴァ弐号機パイロットが招いたものだ。特に赤木博士の行為は目に余るものがある。したがって、次の土曜日は研修を命じる」
「はい…」
「弐号機パイロットは今回大目に見る。下がっていい」
「はい」
「葛城三佐も引き続き任務にあたれ」
「はっ!」


後日、ミサトは結局アスカと109に行くことになった。何事も無くほっとしたミサトであったが、アスカはこってり絞られた後も懲りていない様子だった。
ただ、リツコのことも気にかかったミサトは研究室を訪れた。
「リツコ元気ー?…ぷぷっ」
アフロ姿のリツコがミサトを出迎える。
「人のことを見ていきなり笑うのは失礼ね。いいじゃない、ロックで」
パンクロックが趣味のリツコではあったが、苦しい言い訳だった。
「結局さー、熱海ニャンニャン島…行けなくなったじゃない…」
ミサトが上目遣いで詫びるように言う。
「あぁ、あの件ね。もういいのよ…」
リツコはさらりと答えた。
「えぇっあれだけ行きたがっていたのに、そんなあっさり
争われて酷い目にあったミサトにしてみれば、何と無くそれは無責任な回答に思えた。しかしながら、リツコはミサトの様子に気を留めることも無く呟いた。
「えぇ、もういいの…」
リツコは窓の外を穏やかに見つめた。


アスカとミサトが去った執務室では
「赤木博士…今度の研修についてだが…」
「はい…」
覇気の無いリツコに碇は容赦無く声をかけた。碇は黒服に一枚の紙を持たせ、リツコに手渡させた。そこには、熱海ニャンニャン島同行者一覧という名簿が記されていた。
「…これって」
沈んだ表情だったリツコは顔を上げる。
「赤木リツコ君…本当に…(私も猫好きだったよ…)」
「…嘘つき」

終劇

大変遅くなりましたがRさんのリクエスト「ミサトを取り合うリツコとアスカ」でした。ちょっと大袈裟にして、こち亀風を目指したつもりです。Rさん遅くなって申し訳ありません。そして、いつも本当にありがとうございます!


[*前へ]

2/2ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!