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読み物(長編)

白く霞んだ世界が広がる。違和感が残る重たい瞼を勢いよく開くと、その世界は前にも見たような白い天井だったということ分かった。
「…気付いたか」
「加持君…?」
気付いたらミサトはベッドの上だった。起き上がろうとすると何かがびんとミサトの体を引っ張った。
「駄目だよ。起き上がったら」
「点…滴?」
ミサトが自分の頭の斜め上を見ると、ゆらゆらと揺れる液体の入ったパックが目に入った。パックからぽつぽつと液体がチューブへと注がれている。そのチューブはミサトの腕へと繋がっていた。また体のあちこちにもの同じようなものが貼り付けられている。
「風邪ひくぞ」
「…ん?」
その時ミサトは自分の乳房が露になっていたことに気がついた。起き上がった時
に掛け布団がはだけたのだろう。加持はタオルケットをミサトの肩までかけた。
「み、見たわね!」
「おいおい折角かけてやったのに…それに今更恥ずかしがらなくてもいいだろ?」
「ふん…ばぁ〜か!何言ってんのよ。このスケベ」

顎に手をやり、そっぽを向いてふて腐れた顔をするミサトに加持は少し安心した。
「…そういえば、私…なんでここに…?」
ミサトは先程までの不貞腐れ顔を弱々しく緩めた。
「覚えてないのか…?エントリープラグの側で倒れたっていうのに」
「倒れた…?」
「あぁ。極度の脱水症状だとさ。2〜3日は絶対安静」
倒れたと聞いたこの時、何かをミサトは忘れている気がした。
「そのまま倒れたら頭打って大変なことになってたかもしれないってさ」
「そのまま……?…あっ」
ミサトはぼんやりとした意識の中から当時の記憶の上澄みをすくいとった。
(『おかえりなさい』『…ただいま』)
あの時シンジ君が居て、それから…
「…シンジ君は!?」
ミサトが訊ねると加持の眉がぴくりと上がった。
「ん?隣の病室さ。葛城が戻った後すぐに熱を出しちゃってね。安心したんだろう、きっと…」
「そう…」
ミサトはシンジに申し訳無くなり顔を軽くしかめた。
「…頼もしくなったな、シンジ君」
ミサトは加持の言葉に、ん?と顔をあげた。加持は優しく微笑んでいる。
「そうね…、それに」
「ん?」
「あんたも変なこと吹き込んだみたいだし」
「何だ?」
「何でもないわ」
ミサトは上目遣いで悪戯っぽく笑って見せた。
「あ、そうだ」
加持は何かを思い出し呟いた。
「あとでリっちゃんの部屋に連れてくるように言われたんだ」
「そう…でもまだ本調子じゃないみたい」
未だクラクラとする頭でミサトは応えた。
「じゃ、もう一眠りだな…。リっちゃんも急がなくていいって言ってたから」
「あと2時間ぐらいしたら行くって言っておいて…」
「了解しました三佐殿」
なぁによ、とミサトがからかうような口調で呟くのを聞くと、加持はいつもの飄々とした様子で立ち上がった。
「服とかはそのキャスターボックスのなかに入っているから。あと食事も」
「分かったわ。ありがとう」
「じゃ、俺ちょっと用事があるから…悪いな。リっちゃんの部屋には俺もあとで行くから」
ミサトが頷くと加持は部屋から去っていった。ミサトはただ広く白い部屋に一人残された。
「リツコ…」
薄手のタオルケットをぎゅうと引っ張るとミサトは静かに目を閉じた。


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