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読み物(長編)

ネルフに着くとミサトは真っ先にリツコの部屋を目指す。
何も聞かされていない上にあまりに急過ぎる話で内心ミサトはイライラとしていた。
部屋に着くやいなや、椅子に座ってくつろいでいたリツコに、その心のままにつっかかる。

「リツコッ!!!!!」
「あら、ミサト。」

のん気ともとれるリツコの返事はさらに、いきりたったミサトの心を逆撫でた。

「リツコっ!どういうことよっっ!!!転校!!?朝アンタがこんな体で仕事をされても困るっていったばかりじゃない!」
「どうもこうも無いわ。」
「何よ!はっきり言いなさいよ!どうしようっていうのよ!」
リツコは煙草を揉み消し、コーヒーをすするとぽそりと言葉を口にした。
「…あなたの体のサルベージ、明後日決行することになったの。」

サルベージ…すなわち自らの体を元に戻すことを指している。確かに早く戻りたいと思ったのも事実だが話が急すぎる。

「え?明後日って…何でまた…!もうちょっと何か・・・」
「何かって何かしら。…体、痛いんでしょう?」
「!? 痛いけど…それとこれとどう関係あんのよ!」

「…やはり明後日ね。」

いまいちリツコと話がかみ合わない。ミサトは歯がゆさを感じずにはいられない。

「だから何だっていうのよ!勝手に話を進めてんじゃないわよ!ちゃんと話をしてくれたって・・・・」
突っかかるミサトであったがその言葉をリツコは遮った。
「今から話すわ。いいミサト…?落ち着いて私の話を聞いて頂戴。」

リツコの目がいつになく真剣な眼差しになったので、カッカしていた自身に反省し、心を落ち着かせる。

「…分かったわ。ごめん。」




「いい?」
「ええ。」

「じゃあ…、話すわ。」

リツコは椅子を座り直しミサトとまっすぐ向き合った。
「…あなたの体はあの日の実験以来、模擬体に取り込まれてしまったわ。それで今その姿になっている。即ちそれは体の構成データもあちらに持っていかれた状態なの。ここまではあなたも知っているわね。」

「えぇ。」

リツコは軽くミサトに目くばせをすると、さらにひとつひとつ丁寧に言葉を重ねていく。

「しかし体は勿論成長していくわ。
あなたの体の痛みはその成長するエネルギーが行き場を失っている状態。
構成データが無いからそれ以上成長したくてもできないの。
つまり…行き場を失ったその成長しようとするエネルギーが神経に響き、痛みとして表れている訳。…ここまでは宜しい?」

初日から感じていた異様な体の痛みの原因がそんなものだったとは…ミサトはそれほど痛みについては考えたことは無かったので驚きながらもしっかりと頷いた。
「ええ。…じゃあ、無理に成長しようとするとどうなるの?」

「体は変化に対応できずにやがて急激に老化して腐っていくでしょうね…。
実はビタミン剤と言ってあなたに打っていた注射はその成長を遅らせる薬。
だからといってそんな薬を毎回打てるわけじゃないわ。やがては限界がくる。
だから手遅れになる前にサルベージをして元に戻らなくちゃはいけないの。」


「…体の痛みが激しいってのは要はその限界が近づいているってわけね…。分かったわ。…明後日は宜しく…。」

ミサトの言葉にどこか元気が無い。それを悟ったリツコは重くなった空気を振り払うかのように軽く茶々を入れる。
「ようやく戻れるっていうのにどうしたのよ。…中学校がそんなに楽しかった?」
「うっさいわね!!」
べ、と舌を出しミサトは強がってみせる。しかし大きな声を出すと体中にビリビリと余計に痛みが走って困た。
「アタタタタ…。」


「無理しないの…。じゃ注射打つからそこに寝そべって。」

「うん…。」




「…リツコはさ、中学の時どうだった?」
診療ベッドに寝そべりぼんやりとした声音でミサトはリツコに話を振る。


「どうだったって…特にこれといって思い出は無いわ。」

「そっか……。私さ、リツコに中学の時の話したことあったっけ?」


「…そういえば無いわね。私自身聞こうともしてないけど、あなたもあなたで喋ろうとしなかった…。おしゃべりさんのあなたが…珍しいわね。」
「……あんまり良い思い出が無いからかもしれない…。」


「人間誰だってつらい事は思い出したくないものね…。」

「…でもね。この姿になって、学校に行けて、何だかんだで楽しかったわ…。
やり直せたっていうか…中学校ってあんなに楽しかったんだなぁってね……。」
ミサトが穏やかな顔で話す。
喜怒哀楽の激しいミサトだが、リツコは今の穏やかなミサトの顔を久し振りに見た気がした。


「そう…。さ、注射は終わったわ。」
「…ミサト?」

先ほどまで喋っていたミサトが静かに目を閉じてすうすうと寝息をたてていた。
いつの間に寝てしまったのだろう。
不安も悲しみも何も語らない寝顔。
【人間誰だってつらい事は思い出したくないものね…。】
リツコは先ほど自分が発した言葉を頭の中で繰り返した。




「…ごめんなさい。ミサト…。」




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あきゅろす。
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