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小ネタ
放送終了後〜明智とかすが〜
私はとあるバーに誘われた。
どういう風の吹き回しか、相手はあの明智光秀だ。
他の男(例えば佐助など)ならば鼻で笑ってあしらっただろうが、あいつとなると少し事情が変わってくる。
あの冷酷非道な変態がただ酒をおごって帰してくれるとは到底考えられない。
絶対に何か企んでいる。
だからこそ「行かない」という選択肢はあったのだが、それはそれで後が怖い。
もし謙信さまに危害が及んだりしたら私の判断ミスということになる。
結局身の危険を感じたら即刻蹴り飛ばすことにして私は誘いに応じたのだった。
 
言われた時間通りに行くのも癪なので10分ほど遅れていくと、明智はカウンターで一人グラスを傾けていた。
下戸だという噂だったが、妙に様になっているのもまた癪だった。
 
「…来たぞ」
 
背後から声をかけると、ゆるい動作で明智は振り返った。
 
「来ないかと思ってました」
 
「話が見えない以上、無視するのも野暮だと思ったからだ」
 
「ふふ、律義な方だ…どうぞこちらへ」
 
明智は恭しく隣の席を示した。
仕方なく腰を下ろすと間髪入れずに白い液体の入ったグラスが流れてきて私の目の前でピタリと止まった。
 
「これは…?」
 
「隣のお客様からです」
 
マスターの言葉で反射的に横を見ると明智がくすりと笑った。
 
「そのカクテル、『純白の薔薇』という名前だそうですよ」
 
「へぇ…」
 
一口飲んでみると品の良い薔薇の香りとほのかな甘みが口に広がり、後味はいつまでも清楚だった。
どことなく謙信さまを彷彿とさせる。
私は余韻に浸っているうちに礼を言うタイミングを逃したことに気付き、とっさに明智のグラスへ目を向けた。
 
「それは何だ?」
 
「あぁ、これですか?ウーロン茶ですよ…ただのね」
 
聞かなければよかったと思った。
悠々と喉に流し込んでいると思ったら、やはり酒は敬遠したらしい。
自尊心を傷つけたかと思ったが、明智は特に気にする風でもなかった。
 
「それで?」
 
「はい?」
 
「とぼけるな。わざわざ私を呼びつけた理由を聞いている」
 
隙を見せまいと努めている私とは対照的に明智はううんと伸びをしてあくびを噛み殺した。
 
「戦国BASARA弐が終わりましたね」
 
「はぁ?」
 
私は全身が脱力するのを感じた。
しかし直ぐに姿勢を正す。
油断させる罠かもしれないのだ。
 
「またずいぶん前の話だな。たしか日曜の夕方5時から…だったか?」
 
「えぇ。アニメにとってはゴールデンタイムです。きっと一期より視聴者は増えたのでしょうねぇ」
 
「そうかもしれないな」
 
「もちろん私は出演しませんでしたが、同じBASARAファミリーとして貴女方の活躍を見守っていたつもりですよ、大人ですから。しかしね…私は一言貴女に言っておきたいことがあるのです」
 
私は固唾を飲んで明智の言葉を待った。
 
「一期が深夜枠になったの…貴女のせいですよね?」
 
私はしばらく何を言われたのか分からなかった。
深夜枠。私のせい。
一体どんな繋がりがあるというのだ。
…というか。
 
「お前にだけは言われたくない!!!」
 
「おぉ怖い。少し落ち着いて下さいよ」
 
私がテーブルを叩いて立ち上がると明智は面白がって棒読みで怖がるふりをした。
これが落ち着いていられるものか。
 
「お前が最終話でとんでもない痴態をさらしたからに決まっているだろう!足が着かないことに興奮するとはどういう了見だ!」
 
「確かに興奮し過ぎたことは認めますが、貴女だって越後の龍に対して熱を上げて尋常でないほど喘いでいたじゃないですか!大体ね、貴女忍のくせに肌を露出しすぎなんですよ!」
 
「自分のことを棚に上げるな!お前の第弐衣装なんて紐だろう!」
 
「いいじゃないですか別に!それに私はアニメでは自重して第壱しか着てません!」
 
いつの間にか私たちは不毛とも言える口論をしていた。
マスターは苦笑いで高見の見物を決め込んでいるらしい。
その穏やかな様子に私も幾分か冷静になれた。
 
「ふ…残念だったな、明智」
 
明智は私が余裕を取り戻したことを訝しんで片眉を上げた。
 
「よく考えてみろ。もし本当に深夜枠になったのが私のせいなら、ゴールデンタイムに私を出すと思うか?」
 
「……!」
 
「つまり、弐に私が出ている時点で私に責任は無いということだ。…この意味、お前なら分かるだろう」
 
明智は雷に打たれたようによろよろとカウンターに腰を下ろした。
私も静かに定位置に座ると隣からクツクツと低い笑い声がした。
 
「えぇ、そう、そうですねぇ…薄々気付いてはいたんですよ、でも誰かの…誰かのせいにしてしまいたかった…」
 
だんだん尻すぼみになる明智が少し気の毒になって私は明智に向き直った。
 
「いや、私も悪かった。それに完全にお前のせいと決まったわけじゃない。…まぁ飲め」
 
私が中身の残った明智のグラスを差し出すと、明智は一気に飲み干した。
まるでやけ酒だ。
 
「今日は飲みますよ、私。酔い潰れるまで」
 
「ウーロン茶をな」
 
「隣で見守っていて下さいませんか?」
 
「…付き合ってやるから気の済むまで飲め」
 
明智はやんわり微笑むとマスターにウーロン茶のおかわりを頼んだ。
私も『純白の薔薇』を追加した。
後でこっそり飲ませてみるつもりだ。
今日くらい普通の人間らしさをさらけ出せばいい。
 
2人して本当に酔い潰れてしまうのはもう少し先の話である。
 
 
 
 
 
――――――――
 
 
実はBASARA弐放送よりずっと前に書きかけていたしょうもないネタ。
マスターはかすがを心配して先回りしていた佐助という、これまたどうでもいい設定もあったが、一切反映されていない(笑)
 


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あきゅろす。
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