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01




 1──憎しみを知る





 ::: 小学生編 :::






 「守山(もりやま)くっせー! こっち来んなメガネッ」
 


 叩きつけられる様にして浴びせられたのは、恐らく雑巾を絞ったであろう汚水。

 それも、さっき僕が、サボってるコイツらの分まで必死に掃除した水だ。



 「マジお前汚ぇよ。誰かファブ持って来い」



 僕を囲んでいる複数人の中のリーダー格、黒崎健人(くろさきけんと)が面白そうに言うと、周りの奴らもおかしそうに笑った。



 「ファブでもムリだって」

 「確かに」



 何が楽しいのか、ゲラゲラと笑うそいつらは、次に僕の髪を掴んで、床に倒した。

 ゴンっと鈍い音と共に、脳が揺れて衝撃が走る。



 (痛い──)



 顔を歪めたけれど、抵抗するともっとヒドい事をされるので、黙って耐える。

 床に倒れた衝撃で外れたメガネは、今は黒崎の手の中にあって、指先で引っ掛けてブラブラと揺らされていた。



 
 「……つうかさあ、お前何で生きてんの?」


 メガネを放ってぐいっと近付いて来た黒崎は、散々蹴られて殴られた、ボロボロの僕の前髪をぐっと掴む。

 至近距離で黒崎と目が合った。すると、黒崎は汚いものを見るように顔を歪めて、近くにあったバケツを引き寄せた。



 「飲めよ」



 一瞬、言葉の意味がわからなかった。

 意味を理解する前に、バケツの中に顔を押し込まれる。


 バケツにはまだ雑巾で絞った水が残っていて、僕はバケツの中に押さえつけられながら、本能で拒否した。


 
 「ちゃんと飲めって」



 しかし上から黒崎の声が聞こえてきて、更に強く押さえられる。

 僕のえずく声と、周りの奴らの笑い声が重なった。



 「うっわ、マジで飲んでるよコイツ」

 「きったねー!」



 放課後の教室。

 いくら願ったって、僕を助けてくれるヒーローなんかいない。



 僕はバケツの中が空になるまで、汚水を飲み続けた。

 時々、汚い水に混じって細かいゴミや髪の毛とかがあったけど、全て飲み下す。



 飲み終わってやっと上からの圧力から解放されると、「汚ぇなー」と頭を蹴られた。再び床に叩きつけられる。


 こんなのは日常茶飯事で、今日のはまだ軽い方だ。

 
 好きな子の前で自慰を強制された時は、さすがに泣きたくなったし、ゴキブリを口に入れられた時は吐いた。


 
 僕の顔は汚い水で濡れていて、髪から雫がしたたり、ポタポタと床を濡らす。
 

 ぼんやりとした頭で僕は何度も想像する。
 



 ──コイツらを、殺せたらいいのに。




 口の中が切れて、血の味がする。

 今まで僕にしてきたことを、コイツらにも味わわせてやりたい。そして何より──。


 「守山ぁ、お前生きてて楽しいの?」


 コイツを、顔の原型もわからなくなるくらい、ズタズタに引き裂いてやりたい。

 
 黒崎健人。



 名前を呼ぶだけで、吐き気がする。
 




 「ははっ、お前の顔、今ブッサイク。パンパンだな」


 そう言って笑った黒崎は、僕をいじめることに満足したのか、「じゃあな」と仲間達を連れて教室から出て行った。


 最後に、一人ずつ僕の体を蹴って、それでようやく終わる。




 一人残らされた僕は、しばらくその場にうずくまった。





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