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彰は、吉田と本屋の前で分かれて、帰路に着いていた。
何度思い出しても、今日のチャック事件が恥ずかしい。
(もう最悪だよ……)
恥ずかしいし、吉田に格好悪いところを見せてしまった。
うう……と彰が弱っていると、不意にケータイが鳴った。
(誰だ……?)
訝しみながらケータイを取り出すと、ディスプレイには“吉田”と表示されていた。
「もしもし?」
『あ、もしもし、相川君?』
通話越しの吉田の声に何だかドキドキしながら、彰は落ち着いた声を出す。
「どうした?」
『いや、別に用があるわけじゃないんだ。ただ……その、今日楽しかったって言おうと思って』
「……楽しかった、か……」
チャック事件のことを思い出し、苦笑いする彰に吉田も気付いた様で、吉田も小さく苦笑した。
『いろいろあったけど……』
「……」
でも、ありがとう。楽しかった。
そう言われると何だか自然に笑みがこぼれてきて、ほこほこと胸に温かいものが広がっていった。
『また一緒に遊べるといいな。あ、もちろん、相川君がイヤじゃなかったらだけど』
照れくさそうに言った後、ハッとした様に慌てて付け足す吉田に、彰は笑う。
「イヤなワケないじゃん。またどっか行こうよ。今度はメシでも」
『う、うん……っ』
嬉しそうな声を出す吉田は、きっと勢い良く頷いているに違いないと、彰は容易に想像できた。
帰っている間、結局吉田とはそのまま話し続けていた。
他愛ない、ごく普通の友人同士の会話。
「……ははっ、何だよそれ。……うん、……じゃあ、また」
通話を切って、ケータイをパクリと閉じる。
彰は、ふと思った。
(1ヶ月前の俺だったら、吉田とこんな風に話してるなんて夢にも思ってなかっただろうなぁ)
そう考えると不思議で、彰は改めて人生は何が起きるかわからないなと思った。
歩けば悪い意味で注目される。
代名詞が“黒マリモ”と“オタク”の吉田。
以前までは、きっと吉田のことを見かけたら引いていただろうし、ましてや友達なんて考えられなかっただろう。
黒くてもじゃもじゃした吉田。だけど今は苦手だなんて思わない。思えない。
むしろ、吉田とこうやって仲良くできていることが心地良いとすら思い始めている。
「ほんとに、何が起こるかわかんねぇなぁ」
ぼやき、彰は空を見上げた。
まるで絵の具を垂らしたような、朱く染まった夕焼けが、彰を優しく包み込んだ。
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