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(よ、吉田拓真──!)


 そう、彰が乗り上げていたのは、たった今噂していた吉田拓真だった。


 思わずポカンとして吉田の顔を見ていると、吉田は意外に輪郭や骨格はしっかりしていることがわかった。

 
 骨格フェチの気がある彰は、思わずまじまじとその浮き出た鎖骨につながる首の骨に魅入ってしまう。


「──おい、相川」


 新橋の呆れた様な声に、ハッと我に帰った。


 彰は今更、かなり際どい体勢で吉田を見詰めていたのだと気付いく。

 途端に夢から醒めた様な気分になり、慌てて吉田から離れた。


「わ、ごめん、吉田っ!」


 慌てて起き上がった彰は、吉田に手を差し伸べる。


 吉田は何が起きたのかわからない、と言う様に茫然としていた。


(うわぁぁ……)


 彰は、内心やっちまったと溜め息を吐いて、吉田を助け起こした。


「マジごめん」


 助け起こした吉田は、固まったまま無言だった。


(あちゃぁ〜……)


 その場にいる生徒達の好奇の視線に耐えながらも、彰はもう一度吉田に謝り、新橋と共にその場を後にした。






「──……っぶ、くくく……っ!」


 掲示板の雑然とした人混みから離れると、こらえきれなくなったように、新橋が笑い出した。


「何だよ」


 苦い顔で顔をしかめる彰に構わず、新橋はくつくつと喉奥で笑いながら可笑しそうに言う。


「いやー、進級早々有名人だな、お前。吉田を押し倒した相川彰」

「……うっせー」


 脇腹をどついてやるが、新橋の楽しそうな笑みは引っ込まない。


(ったく、コイツは……。──でも、恥ずかったな、アレは)


 いわゆる騎乗位と呼ばれるそれに、彰は羞恥心をこらえることができない。

 それに、何故よりによって吉田なのか。


(恥ずー……)


 新学期早々えらい目に遭ったと、彰は早足で新しい教室に向かった。





 ──これで、終わりかと思っていた。


 躓いて、転び倒した。


 それを助け起こして謝り、それで終わりかと。


 しかし、後から思い出してみれば、これは始まりだったんだと思う。





 これが、相川彰と吉田拓真の出逢いだった。










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