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「よっし。じゃあ俺がしばってやるよ。ちょっと待ってろよ、今ヘアゴム持ってくる……」
“から”
そう言おうとした時、不意に背中に重いものがのしかかってきた。
「──え? 何かしばるとかゴムとか聞こえちゃったんですけど〜。いやん相川えっちぃ」
そう言ってにやにやと肩に腕を回してくるのは、最近絡みが薄い斎藤だった。
「アホか! 違ぇよ!」
呆れながら斎藤の頭を叩くと、斎藤は面白そうに笑う。
「いってぇ〜。あはは暴力はんたーい」
そう言ってからからと笑う斎藤の隣には怖い顔をした藤原がいて、その睨む様な視線に思わず怯んだ。
(こ、怖〜。超睨まれてるよ……)
独占欲剥き出しの藤原に、彰はびくついて斎藤を引き剥がすしかない。
頼むからあまりくっつかないで欲しい。藤原の視線が痛い。
これ以上くっつかれたら本当に視殺されそうで、彰はまだ死にたくはない。
「おっ、吉田クン。こんちゃ〜」
へらへらと笑う斎藤は、次にコロッケパンを頬張っている吉田に笑いかけた。
彰と同様、他人に壁がない斎藤は、黒マリモと呼ばれ異端者扱いされている吉田にも気後れなく挨拶をした。
しかし、吉田は人見知りの上軽く人間不信なので、固まったまま斉藤の方を見返すだけだ。
「最近、相川と一緒にいるよなー? 俺、斎藤悠希。出席番号5番ー」
しかしさすがは斎藤か。愛想はおろか、返事すらしない吉田に構うことなく、すらすらと自己紹介を紡ぐ。
「よろしくー」
そう言って無邪気にピースする斎藤に、吉田はどう返したらいいか戸惑っているらしく、ぎこちなく頷いた。
「……よ、ろしく……」
ぼそぼそと呟く声はよく聞き取れなかったけれど、きちんと挨拶は返した様だ。
「吉田、コイツはバカだから、気ぃ遣わなくていいよ」
彰がそう言うと、斎藤が怒った様に口を尖らせた。
「バカって何だよー! 俺、お前よりは頭いいぞー?」
「成績の話じゃねーよ。お前は根本的にバカ」
(……つうか、吉田だって困ってんじゃねーか)
見れば吉田は、突然の斉藤の乱入に戸惑っているのか、コロッケパンを手に持ったまま固まっていた。
「ほら、お前はあっち行け。藤原も待ってんだろ」
「え〜、いいよ別にぃ。それよりも俺は吉田クンと喋ってみたいかなー」
吉田の救出、そして何より藤原の突き刺さる視線から逃れるため促した彰だが、それは空気の読めない斉藤によって無に帰した。
このKYがと舌打ちしたくなった彰だが、藤原の前でそんなことをしたら恐ろしいことになりそうなので止めておいた。
「俺達まだ昼食い終わってないから。お前は藤原んとこ行ってろって」
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