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「──でさぁ、ほんとにバカだよなぁ」


 それから一週間が経った。

 吉田と放課後過ごすのは、早くも彰にとって日常となりつつあった。
 この日も、彰はいつものように掃除をサボり吉田と談笑をする。

 新学期当時に感じていた、吉田への軽い苦手意識が嘘のようだ。


「あっ、そういや今日新刊の発売日だ」

 
 不意に思い出して彰が言うと、吉田が問いかけてくる。


「それって、この間言ってたやつ?」

「うん」

「そっか。じゃあ楽しみだね」


 もっさりとした前髪と分厚いビン底眼鏡で表情は見えないが、口元からしてどうやら笑っているらしい。

 最近は吉田の強烈な見た目にも慣れてきて、表情まで少し読み取れるようになった。

 俺も成長したよな、と思いつつ、彰はあることを思いついて、ぱっと顔を明るくする。


「そうだ! 吉田、この後ヒマ??」

「え、うん。特に何もないけど」


 急に楽しそうに顔を輝かせる彰に少し戸惑いながらも、頷く吉田。
 彰は笑顔で言った。


「だったら、この後本屋行かねー? 一人より、吉田いた方が楽しいし」

「楽しい? 僕と行くのが?」

「おう。てか、楽しいってゆーよりも、何だろ、落ち着くってかんじ」

「……でも、いつも一緒に帰ってる人は?」

「ああ、新橋のこと? アイツなら彼女と放課後デートだから大丈夫。リア充爆発しろ」


 憎々しげに吐き捨てると、吉田はほんの少し無愛想に「ふーん」と呟いた。


「? どうかした?」

「いや、別に。それよりも、本屋、本当にいいの?」

「お、おう、もちろん。何で?」


 急に態度が硬化した吉田に戸惑いつつも、彰は言う。
 吉田は、「だって……」と俯いた。


「僕、こんなだよ?」


 そう言ってもっさりとした髪の毛先をつまんで見せる。


「? だから何だよ。……いいから、行くの行かないの?」


 首を傾げ、もどかしげに答えを急かす。

 吉田は、若干虚を突かれたように彰を見ていたが、ぎこちなく頷いた。


「い、行く……」

「よし、決まり! そうと決まったら行こうぜ」


 笑顔で立ち上がり、彰は座っている吉田の手を引く。


「う、うん」


 吉田は、まるで遠足に行く小学生のようにウキウキしている彰に引かれながら、じっと繋がれた手を見詰めていた。







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