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その当時を思い出し、イライラとちりとりをバシバシ床に叩き付ける彰。
その時は信頼していた相手だっただけに、裏切られた時のショックが大きかった。
勿論、その相手とは一発殴ってやった後人間関係を絶った。
「あー、くっそー。今度会ってまだその子とつき合ってたら、もう一発殴ってやろう」
「……まだその子のこと好きなんだ?」
おずおずと訊いてきた吉田に向かって、彰は苦笑する。
「まさか。もう二年も前のことだし。ただ、裏切られたってのが悔しいだけ」
「そう、なんだ?」
「そうだよ。第一、俺今彼女とか作る気ねぇし」
作る気も何も、生まれてこの十数年、一度も彼女なんてできたことはなかったが。
そんなことを言ったら男のプライドに関わるので言わない。
「じゃあ……相川君って、ゲイなの?」
「はぃ??」
ごくりと喉を鳴らした吉田は、とんでもないことを訊いてきた。
「ないない! 俺、レッキとしたノンケだし!」
激しく否定し、彰はブンブンと手を振ってみせる。
「他の奴らはどうだか知んないけど。この学校、ホモップル多いしな」
うんざりして溜息を吐き、そこで彰は、吉田が黙り込んでいることに気付いた。
「あ、で、でも別に、偏見とかしてる訳じゃないからなっ。そういうのは、個人のことだし」
「いや、僕もゲイではないんだけど……」
慌てて言い訳する彰に、吉田は苦笑する。
「そ、そっか……」
何となくほっとし、彰はそれとなく話題を変えることにした。
「なぁ、そういえばさ。吉田は彼女とかいたことあんのか?」
(見るからになさそうだけど)
答えは容易に想像できて、彰は高をくくる。しかし。
「……一応、いたときはあるけど」
「やっぱり……って、へっ!?」
まさかのイエスに、彰は頓狂な声を上げた。
まじまじと吉田を見詰めずにはいられない。
「ガチで言ってんの!?」
「が、ガチだけど……」
「ええー!!」
ここで驚くのは吉田に対して失礼だとはわかっているが、目を剥かずにはいられない彰。
「うあー……。マジかー……」
──吉田に負けた。
代名詞が『オタク』と『黒マリモ』に負けた。
(うわぁぁぁあ……)
心に多大なるダメージを受けメルトダウンした彰は、がっくりとうなだれ負のオーラを撒き散らす。
そんな彰の姿を見て何を思ったのか、吉田は言い訳をするように早口で補足した。
「あ、いやでも、三日くらいで別れてたから」
「三日!? 早っ!!」
ギョッとして思わずツッコミを入れる彰に、吉田は当時を思い出してか上を向く。
表情は見えないが、多分苦笑いしているんだろう。
「いろいろあって……」
「そ、そうか…」
「長続きしたことがないんだ」
「へ、へぇー……」
(一度じゃねえのか……)
吉田の口振りからすると、交際経験は一度ではないらしい。
どうしよう。本当に立ち直れないかもしれない。
というか、こんなもさくてダサい恰好の吉田に何故彼女ができるのかが理解できない。
(服脱いだら凄いとか? タッパはあるもんなぁ)
背は高いが、若干猫背気味な上に、全身から暗くて陰鬱としたオーラが放たれている。
正直、彰は少なくとも自分は吉田よりレベルは高いと思っていたい。
しかし何故、吉田に彼女ができて、自分にはできないのか。
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