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 ──吉田 拓真(よしだ たくま)という男がいる。



 背が高いくせに猫背で、顔を隠す様にいつも俯いている。

 ボサボサでもっさりとした黒髪に、長過ぎる前髪。顔なんて全く分からなくて、唯一分かるのは意外に形の良い唇くらい。

 大きな丸いビン底眼鏡は、本当に前が見えているのか不思議なほどで、また今時どこでそんな眼鏡売っているのかと軽く引いてしまう。

 話しているところは見たことがないし、誰かと一緒にいるところも思い出せない。


 何か陰気くさくてもっさりしている。



 それが第一印象だった。



 しかも趣味は漫画、アニメ、ゲームという、いわゆる2次元系。
 

(ガチオタクじゃん……)


 見た目を裏切らない、オタクのマニュアルそのものの様な吉田に、相川 彰(あいかわ あきら)は特に偏見もなく、気にすることもなかった。

 自分とは世界も価値観も違う、全く別のフィールド上の人間。

 関わるつもりはないし、それでいいと思っていた。

 ──高校2年生に進級し、クラスが一緒になるまでは。





 1.






「相川ー。お前何組だった?」

「C組。新橋(しんばし)は?」

「俺Fー。離れちまったなぁ」


 春。八分咲の桜が新入生を迎え、新学期が始まろうとする今日この頃。

 掲示板に張り出されたクラス替え発表を、彰は中学からの友達、新橋一哉(かずや)と一緒に人垣の外から首を伸ばす様にして見ていた。


「俺と離れて寂しいだろ相川」

「別にー。他にもいっぱい友達いるし」

「冷てー!」


 彰はとっつきやすくノリの良い性格からか、友達ができやすく、好かれやすいタイプだ。
 新橋とは離れてしまっても、C組には1年の時つるんでいたグループの何人かもいるし、明るくノリが良い人達が集まったクラスだと思う。
 

(あ、いや、でも……)


 彰は、C組の一番下にある名前を見て、思わず呟いた。


「吉田拓真がいる……」

「あ?」

「俺、吉田拓真と一緒のクラスだ」

「マジで?相川良かったじゃん。噂の吉田クンと同クラで」


 楽しそうに笑う新橋をじろりと睨み付け、彰はさっさと自分の新しいクラスに向かおうとした。

 その時。



「──うわっ!?」



 誰かの足に躓き、彰は思わず目の前にいた男子生徒に突っ込んでしまった。彰はその男子生徒を押し倒し、上に倒れ込む。


 その場にいた全員の視線が、彰に向けられた。


(……さ、最悪だ)



「お、おい、相川──」


 新橋の狼狽えた様な声が聞こえると同時に、彰は慌てて体を起こした。


「わ、悪い! 大丈夫、か……」


 しかし、次の瞬間、思わず彰は息を呑んだ。



 もう何年美容院に行っていないのかわからないボサボサの黒髪に、大きなビン底眼鏡で隠された顔が目の前にあった。









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