弟の彼女を守る彼女


 花の散った桜の木の下で食べる弁当は、掻き込みすぎて味がわからなかった。

嫉妬に顔を歪めるクラスメイトN

 クラスに限ってだが、だいぶ減ってきていた視線がここ数日で、と言うか二日前から増えた気がする。
 自習とはいえ授業中にも関わらずチラチラと突き刺さる視線は居心地が悪すぎる。まあ、確かに顔面真っ黒メイクの生徒がいきなりナチュラルメイクに変わっていたら誰だって驚くだろう。もしかしたら違う人間だと思われてるのかもしれない。――事実、昨日確認の為か担任に呼び出された。
 ある程度予想はしていたが、化粧が薄い分自分へ向かう視線が気になって仕方がない。これならメイクを変えない方が楽だった。

 でもメイクの仕方を変えたのは私なりのケジメだから戻すつもりは全くない。それに、クラス以外では今の方が明らかに視線を感じないのも確かだ。

「なあ、蓮本」

 いい加減溜め息をつきたくなっていた時、話し掛けてきたのは隣の席の男子。

「……なに?」
「なんでギャルやめたのかなーって、あはは……」
「する必要がなくなったから。それだけ?」

 好奇心に勝てず話しかけてきたのだろう。隣だからと言うこともあるが、ナチュラルメイクにしてから一番視線を寄越していたのはこの男だった。ついでに言えばコイツが話しかけてきた時、シンとクラスが静かになり視線があからさまに反らされ聞き耳を立てられている気がする。

「へ? いや、ええっと……今日の宿題なんだっけ!?」
「は? 宿題なんて出てないんだけど。」
「あ……そうだった。あのさ、蓮本の事名前で呼んでいいか?」

 話の流れが見えない。あからさまに挙動不審な姿は滑稽、というか何か……もしかしたら罰ゲームで話しかけてきたのかもしれない。それなら無駄な視線と挙動不審さと会話のちぐはぐさもなんとか説明できる。何分会話が続くか賭けてる、と言うのも有力だ。

「別にいいけど、もういい?」
「え? あ、」

 会話する気ないと言う意思表示に頬杖をついて携帯を弄り始める。愛想も何もない。
 ああ、お姉さまに会いたいなあ。よし、昼休みはお姉さまのクラスに言って昼食を一緒に摂らせてもらおう。お姉さまは今頃何をしてるのだろう。あの艶やかな漆黒の髪を撫でさせてくれないだろうか。お姉さまを独り占めできる三日月が憎い、ついでに言えばその兄はウザイ。くそ、あの兄弟を思い出したらとてつもなくイライラしてきた。

「はすっ、莉央!」
「…………」
「あの、さ。昼飯一緒に食わねえ? 教室じゃなくて外とかでもいいし」
「行くところあるから無理」

 そう言うや否や四時間目終了のチャイムが鳴り始めたので鞄を肩に掛けプリントを教卓の上に提出する。

「りおちゃーん!」

 そのまま教室を出てお姉様の所へ直行しようと思っていたのに変態似非優男がドアの前に立ち塞がってこちらに手を振って待ち構えていた。しかもそのせいでクラスメイトの殆んどの視線が私に向かって来たから堪ったもんじゃない。思わず舌打ちをしてしまったがどの位の範囲に聞こえてしまったのだろうか。大体このタイミングでこの階にいるって有り得ないだろ。

「なんですか」
「お昼一緒に食べよう? 迎えに着ちゃった」

 えへ。と語尾にハートが付く勢いの言い草と輝かんばかりの笑顔に寒気がした。

「私、お姉様と一緒に食べるんで他当たってください」
「二人っきりじゃまだ恥ずかしい? なら篠崎ちゃん達も一緒でいいよ?」

 まさか、こいつの狙いは最初からそれだったんじゃあ……。この変態似非ドM優男の野郎はお姉様と接点が欲しいために私に近づいて、私のお姉様をたぶらかしてそのうち汚すつもりなんだ。そんな事、私が許さない! お姉さまは私が護るんだから!

「止めてくださいそういうの。貴方如きがお姉様と一緒に昼食なんて許せません」
「じゃあ二人で食べよう? どこがいい? 今日はいい天気だから外でたべようか。裏庭にする? それとも桜の木の所にする?」

 え、まじでコイツ頭沸いてる。あ、変態だから最初からか。つか本当に日本語通じてないじゃん。いや、私が二人っきりの食事を嫌がってお姉様と一緒に食事が出来ると思ってるんじゃあ……。しかも選択が日の当たりにくい所ばかりだ。

「っ……わかりました。どこでもいいですけど、お姉様には近づかないでください」
「ふふっ、もちろん。さ、行こう。手とか繋いでく?」
「半径五メートル以上近寄らないでください、本気で寒気した」


弟の彼女を守る彼女

(それを利用する俺)
10.11.6
10.11.16 修正


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