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freedom
そもそも算数が苦手です



「こんばんはー!」

「帰れ」

ここは並盛中学校の応接室。時刻は午後8時。そこにはヘラヘラ笑う人間とそれを不機嫌そうに睨んでいる人間が居た。

「おお、こんな所にベッドしまってあったのか。応接室最強だな!」

「最強って何?もう寝るんだけど」

黒いパジャマを着た雲雀はめんどくさそうに、ムクリと起き上がる。

「だって今日、応接室に宿題忘れちまってさー。雲雀が追い出すから」

「応接室で宿題するのは僕の特権だから」

「ケチー。っていうか雲雀も宿題すんのかよ!?」

「しないけど帰れ。……って何で筆箱と教科書持ってきてんのさ」

「だってここでやろうと……」

ピポパポ。

山本が言いかけると問答無用でケータイを取りだした雲雀。話を聞く気が無いらしい。

「もしもし草壁?うん、応接室に侵入者が現れたから追い払いに来てくれる?僕は眠くて体が動かない。なに、もしかして僕にベッドから出ろとでも?じゃあよろしく」

プッ。

「眠くてって……まだ8時だぞ?小学生よりはえーじゃねーか」

「……うるさい」

そんな会話をちょこっとした所で、早くもバタバタと廊下を駆ける足音が聞こえてきた。

バタン!

「委員長!こいつを追い払えばいいんですね!」

皆さんお察しの通り現れたのは風紀副委員長の草壁哲也。リーゼントの部分はナイトキャップに隠れてしまっている。

「ワォ、素敵なナイトキャップなんだね。水玉模様キモいよ。紫に青い水玉ってどんなセンスしてんのさ。むしろどこで買ったの」

「っていうかお前もこんな時間に寝るのかよ」

「委員長と山本武の幸せをいのt」

そう言いかけた途端雲雀はガバッとベッドから飛び起き、

「ゴフッ!!!」

草壁を勢い良く殴り飛ばした。

「……まったく、つい起きちゃったじゃないか……!」

ギリギリと草壁の喉にトンファーを押し付ける。

「おー、壁とトンファーに挟まれて顔が真っ青なのなー」

山本が感心している間にもギリギリと草壁の喉は締まっていく。

「委員長……死にますって……!グハッ!」

とうとう草壁哲也は倒れた!

「さて僕は寝る」

雲雀がベッドに入ろうと踵を返すと、それを引き留めるように山本が背後から抱きついてそれを妨害する。

「……離せ」

「お、殴らねーんだ。後ろから抱きついたらぜってートンファーが飛んでくると思ってたのに」

山本に対して無抵抗なまま、面倒くさそうに草壁に目をやる。

「いや、トンファーは草壁に吸収されちゃっただけだから」

そこにはリーゼントと腹部のトンファーが突き刺さっている草壁が。さすがの山本も思わずビビってしまう。

「オイオイオイオイオイオイオイオイ!草壁に思いっきり突き刺さってんだけど生きてんのかよ!?床が赤いぞ!?」

「さあね……、でも抱きついていいなんて許可した覚えはないよ」

「それよりなんで応接室で宿題やろう思ったか分かるか?」

「知らない」

≪ガスッ!≫

実はこの時、山本の手がアブナイ方向に移動し始めていたりしてたのだった。そんな殴られた山本はニ、三歩よろける。

「いでっ!……ヒバリのゲンコツも案外威力があるのなー……!」

「どさくさに紛れてセクハラする君が悪いんだよ。……セクハラしに来てるなら帰れば?むしろそれなら帰れ」

「ん?それって、セクハラしねーなら居てもいいって意味だよな?」

「……………勝手にすれば?」

フイっと視線を逸らした雲雀だが、それはOKという意味だという事を山本はよく分かっていた。と、いうことで。

「だからここに来たのは宿題教えてくんねーかなーって!」

「……は?」

呆れた表情の雲雀に山本は更に付け加える。

「数学の問題がさっぱり分かんなくてさー、雲雀なら分かるかなーって」

「そんなの教科書読めばいいでしょ」

そう言い捨てた雲雀はベッドの中に潜り込もうと布団に手をかけた。そこで山本がわざとらしく呟いた。

「しょーがねーなー、じゃあ獄寺に頼むかな……、ついでにツナも呼ぶか!」

ピタリ。雲雀の動作が止まる。そして苛立たしげに振りかえった。

「君、わざとでしょ」

「お、宿題教えてくれる気になったのか?」

「……生意気過ぎ。気が変わったよ」

とうとう根負けしたのか、ため息交じりに山本に歩み寄る。

「教えてあげるから終わったらすぐに帰ってよね」

「よっしゃ!」

途端に無邪気な笑みを見せる山本。

「僕が教えてあげるんだからちゃんと覚えてよね。間違えたら咬み殺す」

「ハハッ、そりゃ覚えるっきゃねーのなー!」

「……で、どの問題が分からないの?」

応接室のソファに座った雲雀に訊かれ、山本はその隣に座りながら問題集を広げた。

「この問題からこの問題まで」

≪ボガッ!!≫

瞬時に鉄拳が飛んだ。あまりの衝撃でソファから転げ落ちてしまった。

「これ、全部だよね?一問も理解してないの?君は一体授業中に何やってたの?」

「でっ!……まだ間違えてねーだろー!?それにいつの間にトンファー回収してたんだよ!?第一授業中は朝連の疲れで寝ちまって……あ」

うっかり山本が口を滑らせた事に気がついた時には、時すでに遅し。雲雀は黒い笑みでトンファー片手にニタリと笑う。

「ふーん、つまり授業放棄かい?僕がいるこの学校で堂々と授業放棄して風紀を乱すなんていい度胸だね?」

「あ、あ、あ、わ、わりぃ!次はちゃんと起きてるからさ!」

山本が慌てて弁解するが、風紀委員長の雲雀が許してくれるはずもなく……。

「風紀を乱した罪は重いよ。ちゃんと制裁を加えないと……」

「今回だけ見のが……グハッ!」

後ずさりする山本のみぞおちのトンファーがのめり込んだ。

「咬み殺す」

≪ドカバゴガスガスボカボコ!!!!!!!≫

「わだだだだだだだだだだだだだだ!!!!!!」



* * *



―――翌日。

「君遅刻ね、そこに並んで」

「ドンマイなのなー!」

「ちょ、なんで山本が居るの!?

本日は風紀委員による抜き打ちの遅刻チェック。例によって例のごとく遅れてきた沢田綱吉を待ち受けていたのは風紀委員長の雲雀恭弥と、学ランを羽織って臨時風紀委員の腕章を付けた山本武だった。何気に似合っている。

「あーあ、ツナ、咬み殺されちゃうのなー……」

「見捨てられたーーーー!?ってゆーか、それよりなんで山本が風紀委員やってんの!?」

「昨日草壁が死んだから、その代理だよ。それと昨日宿題を一から十まで教えてやったからその借りを返してもらおうかと思って」

「ハハハッ、昨日は楽しかったよなー!雲雀の寝顔も拝めたし、お休みのチューも達成できたし俺的にはこのくらいどうってことねーぜっ!!!」

「(お休みのチュー!?この二人どんな関係なの!?)」

「……山本武もそこに並べ。全員まとめて咬み殺す。ちなみに一番初めは山本武で決定ね」

「んなぁ!?また口滑らせちまった!」

「……………………」

今度山本に雲雀さんとの関係を聞いてみたいと思ったツナだったとさ。



* * *



そもそも算数が苦手です




(あ、ヒバリとは付き合ってるぜ!)

(……君はいつも口軽過ぎだよ……)




2010/03/24



* * *



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