小説調で10のお題
心身ともに感じる激痛(骸→山)
「なぁ、何回も言ってんだろ?俺お前の事が好きじゃねぇんだって」
今日も、言われました。
朝、アジトですれ違ったので挨拶をしただけです。
それだけなのに、誰にも見せないような冷淡な視線を向けられるんです。
「だってお前、友達大事に出来ねぇじゃん。雲雀でさえツナやディーノさんとはそこそこ仲良くしてるぜ?」
理由を訊くと大体彼はこんな事を言います。
僕だって、ボンゴレたちと友好関係築いてるじゃないですか。
「骸のは全部上辺だろ?俺に言われたからってツナと仲良くしたふりをしても、本心は仲良くなんてねぇじゃん。オレ、そういうのすっげぇ嫌いなんだよな」
僕が彼に惹かれたのは、友人の中で何よりも幸せそうな笑みを浮かべた彼が眩しくて、僕も彼と仲良くなりたいと思ったんです。
ですが、僕はとんでもない勘違いで間違いを犯し、それ以来彼は僕に対して完全に心を閉ざしてしまいました。
「お前の事は一生許さねぇ!!!」
その時の僕に怒りや憎悪、敵意や悪意、とにかく憤怒に満ちた彼の表情が今でも鮮明に思い出すことができます。
「そんな訳だから、もう話しかけないでくれな」
それならいっそ殺してくれても構わないのに、会話はいつもこの台詞で強制終了。
胸が痛いです。
* * *
「……あのさ、オレはその事についてはもういいって言ってんだよね?それに山本って俺や獄寺君が傷つけられると、マジギレしちゃって手がつけられないのは俺に言ってもしょうがないし」
「つかよぉ、毎日毎日しつけーんだよ、山本の機嫌取りだかなんだかしらねぇけど、もう諦めろっつーの」
今日も、ボンゴレと獄寺隼人に謝罪をしに行きます。
毎日土下座するんです。
誤解があるといけないので言っておきますが、僕はこの2名以外に土下座なんて生まれてから1度もありません。
「はぁ……もういいから。帰っていいよ。俺はもうこの件については骸を責めたりしないから」
「10代目に同感だ、ほら10代目はお忙しいんだ」
「……はい」
心底うんざりしたようなボンゴレと、僕を執務室から追い出す獄寺隼人に僕は従うしかありませんでした。
―――骸が出て行ったのを確認してツナはデスクの下の人間に話しかけた。
「……ねぇ、これが今日で3年目だよ?信じられる?」
「毎日毎日土下座されんのもかなりきついぜ?任務のときだって電話で謝ってくるし、通信手段がなくたってクロームと幻術を使ってまで謝ってくるんだからよ……」
デスクの裏から出てきたのは山本。
「……でも、俺はやっぱりあいつ嫌いだって。ツナ達には悪ぃんだけどぜってぇに俺はあの日の事を許せねぇんだ」
その言葉で苦笑いしながらツナは言う。
「まぁ、確かに俺達は山本の前で拷問死しかけたけどね……。あれはいくらなんでも死ぬかと思ったよ」
「つか10代目をあんなに危険な目に遭わせやがって許すのも変な話だけど、骸が死ぬまで毎日押しかけるなんて考えた方が鬱になるぜ……」
要は、ツナと獄寺は異常なほどしつこくやってくる骸にうんざりしているのだ。
「いい加減許してあげたら?この場合いっそ形だけどもいいと思うんだ。この調子だったら来世でもその次も永遠につけ回しに来る勢いだよ」
流石のツナでさえも嫌になってるあり様を見て、山本も折れたようだ。
「……じゃあツナ、今から骸と話をしてくる。……場合によっちゃあ骸もただじゃすまないかもしんねーがいいか?」
「!!!!うん、オレたちも助かるよ。まあでも骸はボンゴレの大事な戦力だからほどほどにね」
* * *
「っ!」
驚きました。
彼の方から初めてコンタクトがあったんです。
僕の部屋の扉にそっけなく1行。
≪今すぐ話があるからDハッチに来い≫
本当にそれだけ、むしろこの文を書くのも嫌だとアピールするようにそれは読むのがギリギリできるレベルの殴り書きでしたが、それでも僕の心は喜びで満たされました。
だって山本武がようやく僕の方を向いてくれてるんですから……!
半ばスキップに近い感じでDハッチに向かいます。
Dハッチを出てすぐに彼の姿を確認できました。
「…………」
「こんにちは」
「…………よぉ」
いかにも嫌々でしたが僕にとってはそんなもの関係ありません。
彼とようやく会話が出来たんです、初めて挨拶が出来ました、それだけで僕は天にも舞い上がれる気分でした。
今日は本当に幸せな日です!
「骸、オレはお前の事がまだ嫌いだ。多分一生嫌いだ。だけどツナ達の所に押し掛けてこられるのはもっと迷惑なんだよ。だから、もし条件に従ってくれるなら骸を許す事が出来るかもしんねぇ」
「!!!僕、何でもします。山本武への償いならいくらでもするつもりです」
そう言うと心底嫌そうに眉根を寄せた。
「……あのな、オレお前の事一生許さないつもりだったんだけどな。いや、許せるかどうかはわかんねぇけど」
「許して、もらえるんですか?」
「あぁ、ただし」
「オレの気が済むまで殴らせろ」
* * *
≪ガスッ≫
「ゴフッ!」
≪ガっ≫
「クッ」
どのくらい殴られたんでしょうか。
もう頭がくらくらして時間の感覚もありません。
体中が痛いです。
「……止めにするか?俺はどっちでもいいぜ」
「いえ、続けて……下さい」
「そっか」
そしてまた繰り返される容赦のない暴力。
骨は何本折れたんでしょうか、意識を失わないのは山本武があえてそうしてるからでしょう。
見上げると山本武は今で無表情で、
「チッ」
≪ガスッ≫
顔面を蹴られました。
「……ふぅ、ツナ達、どんだけ痛かったんだろうな?辛かったんだろうな?」
「…………」
友達を何より大事にする彼に僕の事を見てもらうために、友が消えれば僕は1番になれる。友を使って脅せば彼は堕ちる。そういう浅はかな考えでやった事。
しかし、彼は屈しませんでした。僕と付き合うなら止めます、その言葉と共にからの心に湧きあがったのは心からの憎悪しかありませんでした。
そして、彼は怒り狂い武力行使で僕を退けました。
「なんだかキリがねぇな」
一旦彼が僕を殴る手を止めました。
「これ、刺していいか?」
鼻先に突きつけられたのは、長さ20センチくらいのナイフ。
「……っ!」
おもわず息を飲む僕の胸倉を山本君は左手で掴みあげ、右手にはナイフ。
「ツナに殺すなって言われてるから殺しはしねぇぜ?本当はお前の目玉だってえぐってやりてぇけど気分だけどな」
「…………」
そもそも僕もどうかしてるのだ、何故こんなに酷い扱いを受けても彼を嫌いになれないのでしょうか。
そんな事、前世を含めても今までになかったというのに。
≪ドスッ!≫
とうとう山本君はナイフを僕の右肩あたりに深々と突き刺しました。
「っっ――――!!!!」
僕は声にならない叫びをあげて意識を手放す。
遠のく意識の中で彼の泣きそうな顔と「もう、いいぜ」という言葉が耳に入った気がした。
* * *
目を覚ますと、白い天井白いベッド。どうやらここはボンゴレの医務室の様です。
体を起こそうとすると背中に鈍い痛みが走ったので諦めました。
「おい、無理すんじゃねぇって」
「!」
声がした方向を向くと何と山本君が居ました。
「どうして……」
「ちょっとやりすぎちまったって思ってな。流石にツナにめちゃくちゃ怒られたぜ」
そう苦笑いをする山本君はズイッと話しながら剥いていたリンゴを差し出しました。
「食えよ」
「ありがとうございます……」
急に態度が変った彼に戸惑いを覚えながらリンゴを受け取ると山本君はポツリと呟く。
「オレ、大人げなかったのな。確かに恨んでるし怒ってるしあん時の事を許す気なんてさらさらねぇけど、それでも骸ずっと僕に謝り続けてんのにな」
良く見ると彼の肩が震えていた。
「それなのに俺、意地貼ってひでぇこといっぱいして、ホントに」
「……ごめんな」
「山本君が謝る必要ありません!!!」
僕は思わず体を起こして声を荒げる。
「僕は確かにとんでもない事を起こしたんですよ!?貴方は僕の事あんなに嫌っていたじゃないですか!」
僕、何言ってるんでしょうか。許してもらいたいのに許してもらう事を拒んでるみたいじゃないですか……。
「ハハハッ、別に今も好きって訳じゃなんだぜ。でも許す」
今度は僕の左右の目をじっと見て言った。
「まずは他人からやり直しな」
* * *
(彼の心の傷はまだ癒えない。癒えるまで僕の贖罪は続くんでしょうか?)
09/12/08
お題元:処女懐胎と胎内記憶に基づき
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